深く、暗い森をひとりでさ迷って見つからない出口をずっと探してた。
早く抜け出したいのに前も後ろも真っ暗闇で身動きがとれなくて、ひとりで苦しんで。
声を枯らして叫びたかったけれど何もかも壊れちゃいそうで自分の気持ちを言葉にすることが怖かった。


…ずっとひとりだと思ってた。





お昼休みのチャイムがスタートダッシュの合図。
俺はあの子のいるクラスへと駆け出すのが最近の日課になってきた。

最初はお弁当のおかず(海老フライ)が目当てだったけど、今は可愛いオマエ目当て。
恋は盲目って言葉がピッタリなくらいオマエに夢中でこの長い廊下が俺の恋を邪魔してるとさえ思い込んでしまう。

この廊下の角を曲がればオマエのクラス。ラストスパートをかけようと力を込めるとオマエの後ろ姿が目に入り、驚かそうと後ろから抱き着いてみた。
俺の腕の中に収まったオマエからシャンプーのいい匂いがしてそれだけで幸せな気分になった。

「みっけ」
「わっ琉夏くん!今日も早いね」
「オマエに会いたくて走って来ちゃった。ね、早くお弁当食べよ?」

両手に抱える様に持っていたお弁当を軽々持ち上げてオマエの右手を優しく握り屋上へと歩きだした。


北風が吹く冬の屋上。
そこでオマエが愛情込めて作ってくれたお弁当を一緒に食べて昼休みを過ごす。
お弁当を食べるのには向いていない季節だけど、誰もいない屋上は貸し切り状態。だから食後は決まって膝枕をしてもらっている。

最初は恥ずかしがってしてくれなかったけど何度もお願いしてやっとOKがでた。完全に俺の粘り勝ち。

今日もオマエの柔らかい膝で食後の余韻に浸っている。

「今日もいっぱい食べたね」
「オマエの作る海老フライ俺大好き!」
「ふふっありがとう」

俺の頭を優しく撫でて、時には指を使って髪をとかす。人に髪を触られるのがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。
それに俺の頬に白くて綺麗な肌が密着してドキドキする。

「オマエの肌、すべすべして気持ちいい」
「るる、琉夏くん?」
「こっちもすべすべかな?」

焦ってるオマエが可愛くて、もっとからかってやろうとスカートの中にそろそろと手を入れようとしたらバチンッと手を叩かれた。

「ごめんごめん。冗談だから」
「ふ、ふざけすぎだよ!」

真っ赤になったオマエはやっぱり可愛くて叩かれた手の痛ささえ愛しく思えた。
あれ、そうすると俺はMになるのかな。まぁオマエ相手ならそれも悪くないか。

「…こうやって屋上でお弁当食べるのもあと少しだね…」
「そうだな…」

俺にとって幸福な時間は一ヶ月後に控えている卒業という節目でもうすぐ終わりを迎えてしまう。




そういえばこの屋上でオマエに怒られたっけ。まだ俺が生きている実感がなくていい加減だったあの頃。
屋上から落ちても別に構わない。俺が死んだって悲しむ奴なんて誰もいないんだからってずっとそう思ってた。

でもね、今は違うよ。

あのバイク事故が起こって俺は初めて気付いたんだ。血は繋がってないけど俺には家族がいて大切なひとがいたことに。

恐い顔した兄ちゃんのコウやいつも優しく見守ってくれている母さんと父さん。

そして、大好きなオマエ。

病院に駆け付けたオマエの泣き顔を見た瞬間、死にたくないって生きたいって思ったんだ。





「琉夏くん…泣いてるの?」

いつの間にか頬を伝って涙が流れてていた。
悲しい訳ではないのに涙が出るなんて俺はとうとうイカれてしまったのかもしれない。

「…泣いてないよ」
「でも…」
「だって俺、今幸せだよ?」

そっか。これは悲しいんじゃなくて嬉しくて涙が出たんだね。
まるで子供をあやすように頭を優しく撫でる。その度に胸の奥がオマエでいっぱいになるんだ。

「…わたしも幸せだよ」

ふんわりと笑うオマエを見てまた涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
こんなに温かい涙を流したのは生まれて初めてだ。
だけど泣き虫なヒーローなんてカッコ悪いからオマエに見られない様に身体を横にして目をつぶった。

「春になったら…」
「え…?」
「春になったらオマエが作ったお弁当を持ってお花見に行こう」
「…うん」
「海老フライとおにぎりと…あとホットケーキいっぱい作って欲しいな」
「…うん、約束ね」


その小さな約束が例え叶わなくても。俺には生きる希望になっているんだよ。


オマエにまた出会って、恋をして…。
ずっと見つけられなかった出口へと日だまりみたいなオマエが導いてくれた。
怖くて怯えていた俺に声に出していいんだよって許してくれた。


ひとりじゃないよって教えてくれた。



オマエから両手に抱えきれない程いっぱい幸せを貰ったから今度は俺がオマエを幸せにするんだ。
もう絶対悲しい思いをさせない。

あの教会で誓うよ。






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とにかく琉夏くんを幸せにしてあげたかった!

琉夏くんはバンビに出会えて本当によかったと思う(><)

(2010.10.19)

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