「ニーナ!」
「あれ。いま帰り?」

街で偶然ナンパをした女の子と入学式に運命的な再会をして数ヶ月。
今日は部活もバイトも休みだから気になるあの子を初めて下校時間に待ち伏せしてみた。

「そうだよ。ニーナも?」「うん。なんも用事ないんだったら途中までどう?せっかくだし」

わざとらしく偶然を装ってアンタに近づく。
一緒に帰りたくて15分も待ち伏せしてたとか口が裂けても言えないよ。

「うん。いいよ」
「マジで!?」
「よかったら喫茶店寄ってかない?ノド渇いちゃった」
「きっ……喫茶店?」






まさかの展開にオレの心臓はすでに爆発寸前。初めて二人っきりで喫茶店に入ってオレは柄にもなく少し緊張していた。席に案内されお互い向かい合って座ると更に緊張しちゃって出された水を一気に飲み干した。
目の前のアンタは俺の気も知らないでメニューを見て鼻歌なんか歌っていて、オレもメニューを見ている振りをしてアンタに釘付けだったりする。

…なんかオレ、スッゲェ怪しくね?

「私これにしよ!ニーナは?」
「オっオレも決めたよ」
「じゃあ注文しよっか。すみませーん!」

アンタの声に気がついた店員がやってきて注文をとる。中学の頃はナンパして喫茶店に行くことなんてよくあることだったのになんでこんなに緊張するんだろう。

アンタに声掛けた理由は単純に可愛かったから。だけど再会した時にアンタはすでに学校のマドンナ的存在だった。超有名な桜井兄弟とか頭のいい生徒会長とかピアノが天才的に上手い先輩に好かれていて。しかもあの嵐さんまでもが彼女に気があるみたいだった。

それを知ってから自分のしてきたことが急に恥ずかしく思えた。
だからきっとオレなんか眼中にないに決まってる。
そんなスゲー人達に囲まれてるんだから凡人なオレなんて……。

ハァ…ヤダヤダ。
考えただけで頭いてぇ。

そうこうしているうちに先程注文した飲み物が届いた。


アンタはアイスティー。
オレはピンクレモネード。

オレの前に置かれたピンクレモネードでため息を隠す様にストローで一口コクンと飲むとそれを見つめるアンタに気がついた。

「どうしたの?」
「ピンクレモネードってどんな味するの?」
「えっ、もしかして飲んだことないの?」

うん、と彼女は小さく頷いた。
初めて見るピンクレモネードに興味津々なアンタはまるでサーカスを見る子供みたいに瞳をキラキラと輝かせてる。その姿が年上の先輩に見えないくらい無邪気で可笑しくてなんだか笑えた。

「マジで?甘酸っぱくてめちゃくちゃ美味しいのに」
「ねぇ、一口ちょうだい」「へ?」

アホみたいな声が出てフリーズしているとアンタの手が伸びてきてコップを奪われた。

「ちょっ、アンタ何やって…!!」

叫んだ時にはオレから奪ったコップのストローをくわえ、美味しそうにゴクンとピンクレモネードを飲み込んでいた。
余程美味しかったのかまたストローに唇が近付いたから、オレは慌ててアンタを止めた。

「わぁっ!タンマ!タンマ!」
「ダメだった…?」
「ダメ…ではないけどさ…これって…」

間接キス、だよな…。
思わずアンタが口づけしたストローをまじまじと見つめ、唾をゴクリと飲み込んだ。ああもうこんなことでドキドキしてオレは中坊かよっ!

「いや、…何でもない…」
「?変なニーナ」

これが天然なのか狙ってやっているのか…。いや、後者だったらかなりの小悪魔だろ…!天然でもアンタの破壊力マジパネェ…。

「…美味しかった?」
「美味しかった!」
「それ…気に入ったならあげるよ」

だってまたオレがそれ飲んだらアンタと間接キスじゃん!……なんて言えるわけないから心の中にしまい込んだ。

「いいの!?ニーナありがとう!」
「どういたしまして」

…いろいろ考えるのはやめよう。アンタの嬉しそうな顔はオレだけが今独占出来てるから。
今までのオレじゃなくてこれからのオレをアンタに知ってもらえればいいや!

オレ、絶対アンタに振り向いてもらえるイイ男になるよ。

「あっ!じゃあ変わりに私のと交換しよ」
「うん!あんがと」

そういってアンタから差し出されたアイスティーがじつは飲みかけだったことに気付いたのは喫茶店を出た後で、オレはまた中坊みたいな葛藤に襲われた。






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ピンクレモネード=ニーナ

友情から好き状態に変わるニーナの恋というイメージで書きました(^^)



(2010.10.13)

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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