生真面目チョコレイト




昔から、真面目だねといわれることが多かった。友人にも、教師や周りの大人達にも、両親にだってそうだ。

『君は真面目でえらい、えらい』

幼い頃ならばそう言って頭を撫でて貰えるとただ純粋に嬉しかったのだが、いつの頃からだっただろうか。

『もうちょっと伸び伸びとしていても良いんだよ』

そんな風に言われるようになって早幾年。自分の真面目さがそんなに間違っているのかと不思議でたまらない。


このお話は、そんな僕のとある一日の葛藤劇。



生真面目チョコレイト



「なーなー!甘いもん食える?」
「あ、あぁ。甘味は好物だが」

ある日、クラスの友人、高橋君とこんな会話をした。僕の答えを聞いた彼は「じゃ、これやるよ」と赤い包装紙に包まれ綺麗にラッピングされた、四角い手の平サイズの小箱を僕に差し出す。

「いやでも、このような物を頂く訳には」
「いーっていーって!中身チョコだからさ、甘いもん好きなら食ってよ」

そう言って後ろ手にひらひらと手を振って、高橋君は颯爽と僕の前から去って行く。
僕はしばしの間、その箱を持ったまま立ち呆けていた。

こんな大層な物を頂いてしまって良いものか。とても綺麗に包装された其れは、おおよそ僕にあげる為の物には思えない。
高橋君は他の誰かにあげたかったのに、泣く泣く僕にあげる羽目になってしまったのか、それとも誰かからの頂き物を何故か僕にあげようとしてくれたのか。
むう…頂いてしまって、良かったのだろうか…。

「ちょ、何だよその箱は!チョコか?チョコなのか?それは自慢か?もーお前帰れ!帰るがいいさ!」

そうやって一人で悶々と葛藤する僕を見て、クラスメイトの高石君が僕の背中を巫山戯(ふざけ)ながら乱暴に押してきた。
それにしても何故そんなに高石君は怒っているような、悲しんでいるような、微妙な表情なのだろうか。
何より、何故僕が手にした包みをチョコレートだと思ったのか。全く、世の中は不思議で溢れている。

…よく分からないが、僕もそろそろ帰るとしよう。





「今日、は」

…帰宅して気付いた。いや判明したこの事実。一体どうしたものか。深く考え過ぎなだけ?いやいやでもしかしだな…

「バ、バレンタイン…」

自室のカレンダーをふと眺めていて気が付いたのだが、今日は紛れも無く二月十四日。そう、バレンタインデーなのだ。
そして今僕が手にしているこの箱は、今日、バレンタインに貰ったチョコレート。今日は好意を抱く人間にチョコをプレゼントする日。そんな事は今や誰もが周知であろう。だとすると!

「ぼぼぼぼぼぼぼ僕は」

今まで友人だとばかり思って疑わなかった高橋君に、好意の篭ったチョコを戴いてしまったということなのか…!あぁ…!

高橋君はとても良い人だ。優しいし、話していて面白いし、話も合う。趣味なども今思えば似ていた気がしないでもない、かも知れない。

それに僕自身、同性愛等の類に偏見は無いし寧ろ、偏見を持つ者を否定したい派ではあるのだからして…。
いやでも待て!彼は、ぼぼぼぼぼぼ僕の事を一体どのように思っ、想っていてくれているのだろうか。

そういえば、彼本人から告白の言葉を聞いていないではないか!それでは僕がいくら考えたところで一人相撲だ。
では本人に直接真意を聞くべきなのでは?いやいやでも待て。このチョコで「察しろ」という意味なのかも知れないそうすると僕はとんだ失礼を侵してしまうことに…!

頭を抱え、目を閉じてあわあわと考えを巡らせていたそんな時だった。
携帯のバイブレーションがカタカタと僕のポケットの中で騒いでいるのに気が付いた。僕は無心でその着信に出る。

「はっ、はい、もしもし」
「あー俺だけど!」

まっ、まさかの本人から電話だと…!これはもしかしたらもしかしてこっ、こっ、告白…

「もしかしてさ、俺があげたチョコの事で悩んでたりする?」
「…ひぇ?」

僕の素っ頓狂な返答に、電話越しにはははっと彼の爽やかな笑い声が聴こえてきた。一通り笑い終わった彼は、やけに嬉しそうにこう続ける。

「や、どう取ってくれても構わないけどね」
「それはどういう…」
「箱、開けてみてよ。お前をからかった訳じゃない事だけは分かるはずだから」

「んじゃね!」と一方的に通話を遮断されてしまった僕は、仕方なく言われた通りに貰った包みを開封してみる事にした。


「………………あ…」


包みを開けると、美味しそうなチョコレートと一緒に一枚のカードが添えられていた。





そこには、僕宛てだと分かる男の荒々しい字で書かれた宛名と、差出人の“高橋”の文字。
そして真ん中に、赤い色鉛筆で描かれた小さなハートマークが印してあったのだ。



僕は、真剣に考えていいのだろうか。
もう少々悩む事を、僕は快く受け入れよう。



---fin---



バレンタインということで、それっぽく書いてみました。
サラリと本命チョコをあげてしまうそんな爽やか君、好きです。色えんぴつでハートマークとかなんとも乙女で可愛い。(そして分かりづらい)
二人はどうなったんでしょうね。←


次ページは続編「生真面目ホワイトチョコ」です(´`*)

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