そのナミダを拭いて 01.




一週間の内、俺は火曜日が一番好きだ。
何故かといえば、火曜日は山口さん家に行ける日だからなのである。



そのナミダを拭いて



「山口」と書いてある表札の前に立ちピンポン、という無機質な音を鳴らすと、いつものように山口さん宅の母親が出迎えてくれる。…って、山口山口言い過ぎかな。

話を戻すけど、笑顔でお母様と挨拶を交わし靴を揃えて玄関に上がって、そのまま軽やかな足取りで階段を昇ってすぐ右の部屋のドアを二度ノックするんだ。

「はぁーい!」
「笹木です」
「どうぞー?」

その声の主は、山口さんちのツトム君――ではなく穣(ミノル)君である。
穣は馬鹿などでは決してないのだが、今年大学受験なので念の為にということで、俺が週一で家庭教師として実に勉強を教えている。まぁ、ご近所の誼(よしみ)だ。

「よ、元気にしてたか?」
「うんっ!良司(リョウジ)君は?」
「まぁそこそこだな」
「そっか!でねでね、昨日テスト返却があったんだけど…」

――こんな感じでいつも授業が始まる。始まる時間も終わる時間も特に決まっていない。ちなみに謝礼は穣の母さんの手料理だ。


小綺麗に片付けられた穣の部屋は、いつも良い香りが漂ってきてとても心地が好い。そういえばこの前、その香りについて尋ねたら「秘密だよふふふ」と濁されてしまった。うーん、やけに気になるな。


「ん、穣ここの文法違ってるぞ?ここはそうじゃなくてだな…」
「あ、そっかぁー!凄い、やっぱり良司君の教え方って上手いよね?」

低めの小洒落たガラステーブルに、いつも通りに二人並んで座って問題用紙と睨めっこする。黙々と問題を解く穣を横目で見ながら、時折俺がアドバイスやら解説やらを挟んでいく。

今日は珍しく稔が煎れてくれたらしいコーヒーが、やけに旨くてびっくりした。

しかしなんだ…?今日はなんとなくいつもと雰囲気が違う気がする。部屋全体の香りが濃い…のか?
それとも若干いつもより穣が近くに座り過ぎだからか?

…なんて、俺が穣に対して「生徒」以上の感情を持っている事は一生、墓まで秘密だ。

「どしたの?良司君?」
「あ?…や、何でもないぞ」
「ふーん…?変な良司君っ」

俺の顔を不思議そうに覗き込むふわふわ猫っ毛の穣の髪が、エアコンの風に当たって戦(そよ)いでいる。そのくりくりの大きな瞳には、少し慌てた俺の顔がハッキリと映っていた。

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