その件は保留で!01




「ハァーイじゃあ乳首だして。で、ここに生クリームあるから先っぽに塗りなさい」
「はあぁ?ちょっなんで脱ぐん…脱がせんなっ!つか生クリームってなんだ生クリームって!」
「……アンタあたしに逆らえると思ってんの?100万年早いわよ」
「う"っ…」



その件は保留で!



うちの家庭は色々と複雑だ。

まずひとつ。
うちには両親が居ない。俺がまだ幼い時期に、二人揃って事故に遭い還らぬ人となったらしい。
んなわけで俺は五つ離れた兄と共に祖父母に育てられた。その祖父母も去年他界した。っあ、別に全然重いハナシじゃねーよ?うんうん。

ふたつめ。
俺にとってはこっちのがよっぽど衝撃の事実。
さっきも話した俺の兄玲司が、つい3年ほど前…玲子になった。
といっても本格的に工事をしたわけではなくて、ネタ明かしをされたってだけなんだけど。
もともとオネェっ気があるなぁとは思っていたがまさかマジだなんて考えてなかった俺は、突然カミングアウトされたその衝撃の事実に慣れるのに丸々3年ほどかかった。
俺にとって存命の血縁者はこの人しかいない。それを抜きにしたって俺は、元より兄が大好きだったのだ。
……ちなみにそんな兄は今、有名なBL漫画家である。とっても人気らしいボーイズラブ作家だそうだ。大事なことだから2回言いました。

さいご。
俺には途方もなく金がない。
大学まで入れてくれた兄には感謝しているが、その代償として要求されているBLマンガのモデルが日に日に度を越し始めた。

この前は乳首に生クリームを塗りたくられて弄くり回されたあとよもや血の通った兄に舐めとられるというとんでもなく気持ちの悪い体験をするハメになったし。最悪だ。



「ねぇアンタ、今度友達連れて来なさいよ。あのイケメンの!」
「はぁ?真義に何させる気だよ」
「うっふふ〜…ヒ・ミ・ツ!バイト代はずむわよぉ!絶対伝えといてね!」
「げ……。い、一応言うだけ言うけどさぁ……」

またよからぬことを考えているらしいうちの稼ぎ頭の含み笑いをげんなりと見つめながら、こりゃマズイことになんなきゃいいけどとどこか他人事のように考えていた。



* * *



「よく来てくれたわねぇ真義クン!」
「はは……っす」

真義は俺の大学のダチで、とにかくウルトラスーパーイケメンと有名なやつだ。ほどよく抜けた金髪に、スラッとしつつもバランスよく筋肉のついた身体。見た目こそチャラ男だが、なかなか性格が男前。まったく真面目で硬派なイイ奴である。イイオトコと表記するのにこれほどぴったりな奴はなかなかいないだろう。

真義に先日の一件の話をしたところ、ちょーど彼も金欠で困っているらしくノリノリで着いてきた。ホモマンガのモデルだっつーのにびっくりするくらいノリノリで。

「じゃ、真義。健闘を祈る……ってなになになに兄ちゃ…!」

当人同士を引き合わせるという任務を完了した俺は、片手を挙げそそくさと兄…もとい姉?の部屋からずらかろうとした。ら、ガッシリ男の力で腕を掴まれて引き戻される。

「アラアラ悠太どこに行く気なのぉ?」
「どこって…俺は部屋かえんよ」
「え、お前部屋戻るのか?」
「真義までなにを……」
「フフ、分かってるじゃない真義クン!せぇ〜っかくイイ男がここにいるんだから、相手役はもちろんアンタよ、ゆ・う・たッ!」
「え、えぇ〜〜〜!?!?」

兄のスネをかじって生きている俺には、拒否権なんてないに等しいワケで。

にんまり笑うオネェ口調の兄をぐぎぎ…と唇を引き結みながら見上げた。

「ハイじゃあ二人共!とりあえず下着以外全部脱いで、あ!悠太の下着はアレだからこっちに着替えてね、はいはいサッサと脱ぐ!」

ぱんぱん、と手拍子で急かされるままにパン1になった俺達。
俺の下着はアレだからってなんだアレだからって。べつに普通のトランクスなんですけど!

……それはそうと真義のボクサー姿はなんかそれだけでキマってて思わず目を奪われた。なんだこいつマジで格好いいな。

「悠太、案外胸板うっすいな…」
「うっせーよ!!なんだよ自分が男前だからって〜……」
「ハイハイ二人共いいわねぇ〜ア・ラ!真義クンなんなのそのお腹!割れてる!素敵!も〜アンタも真義クンくらい鍛えたらひょろくなくなるんじゃないの?」
「うるっさいな!!」

なんで俺だけこんなイジられんだよ。そーですよどーせ俺はモヤシっこですよわるーございましたねえー!!

むす、と機嫌を損ねたのを隠すこともせず盛大に頬を膨らましていると、そんな俺の態度など微塵も気にしていない様子の兄が早速だけど、と話を始めた。

「いつも悠太にモデルさせてたんだけどねぇ〜やっぱりBLなんだから男同士!絡みがみたいわけじゃない!ってコトで今日は真義クンも来てくれたわけだし、じゃんっじゃん二人に絡んでもらうわねぇッ」
「ちょ、な…兄ちゃんっ!マジかよ!俺だけならまだしも真義まで!」
「いいんだ悠太。俺は今日アルバイトとしてここに来てるんだから、金を貰う以上要求されたことはキッチリ全うする」
「えらい!!真義クン見た目だけじゃなく心意気まで男前だわ!!じゃあ早速、真義クンが悠太にキスを迫ってる感じで壁に押し付けてみて!はい!」

益々ご機嫌になっていくうちのオネェは、近年稀にみない笑顔でホイホイと俺達に高度な要求を叩きつけてくる。

つか最初からなんで二人して下着姿じゃなきゃいけないのか分かんねんだけど。なんなのまじで。

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