互いの利益のために01




日曜日の晴れやかな午後。冬の冷たくて渇いた空気が春の暖かくまどろんだそれに変わる季節の変わり目。皆一枚分薄着になる心地の好い気温。
あぁ、もう春になったのか……――


――それは友人である和成と一緒にCDを買いに出掛けた日のことだった。
互いの利害が一致するという言葉を、これ程までに苦虫を噛むような思いでひしひしと実感したのは初めてだったワケだ。



互いの利益のために



「やーべー超喉渇いた!ここ出たらマック行かね?」
「…俺も便所行きてぇ」
「はは!じゃあ決まり!」

俺達はCDショップから程なくした薄暗いビルの中に居た。このビルの地下に入っているちょっと廃れた店には、廃盤になって超ど級レアなCDがたまに並んでいたりするからだ。
二人でひと通り店を回って、今日の戦利品は新曲だけかーなんて言いながら、おどろおどろしくて冷たいビルのエレベーターの呼び出しボタンを押してゆっくりエレベーターが降りてくるのを待っていた。

時に俺はこのビルに入る前から尿意に襲われていて、でもここのトイレは薄気味悪いしお世辞にも綺麗とは言い難い。
だから膀胱にごめんなさいをしながら、ビルから出たらどっかで借りようと思っていた。

「しっかしなんかアレだな、このエレベーター止まんじゃね?ってくらいボロいな」

漸く降りてきたエレベーターに乗り込み“閉”のボタンを連打しながら和成がそう笑い飛ばす。
こいつは中学ん時からのダチで、元々似てる性格と趣味のおかげか、高校生になっても今だ喧嘩ひとつすることなく一緒にいる。違うことといえば和成の方がよく喋るということくらいか。俺も無口なわけではないが、こいつは本当に口先から生まれた男のように口を開けばペラペラ言葉が出て来る奴だ。
楽観主義で後腐れがなくていつだって話題に事欠かないこいつを、俺は少なからず親友だと思っている。毎日一緒にいんのに飽きないんだよな、まったく。

「………つか、止まってないか」
「は?」

エレベーターの壁に寄り掛かるようにして腕を組んでいた俺は、出発しかけたその箱がいつまで経っても進んでいかないことに気が付いた。丁度地下2階と地下1階の間であろう部分から一向に動いていない。

「まじか」

とは言うものの和成の顔に焦りの色は見えない。むしろちょ、まじかまじかー!と逆にテンションが上がったらしい和成はスマホを取り出していじり始めた。

「おい、何して」
「んー?エレベーターに閉じ込められたなう…つか電波ねぇ!ははっ」

へらへら笑って顔を上げる。どれだけ楽観主義者なんだこいつは……。地下なんだから携帯繋がんねぇだろあほが。

このビルは古い。そして壊滅的に人気がない。現に今日俺達がこのビルに足を運んでから今まで、店員以外の人間に会っていない。日曜日の真っ昼間だぞ?どれだけ過疎ってるのかなんて言わなくても分かる。

ついでにエレベーターも古くて、さっきから押してる緊急連絡用ボタンもこれ作動してるのかすら定かではない。緊急ボタンの意味がない。
当然のように監視カメラなどもないし、これ下手したらエレベーター止まってることに気付かれないまま何時間も過ごすことになるんじゃ……

「どした?秀一顔色悪くね?」
「あ、あぁ……」

ぐるぐると思案が頭を駆け巡って、思いの外絶望的な状況にいることを実感した俺は手の平にじわりと嫌な汗をかいていた。
心配そうに和成が俺の顔を覗き込む。

「大丈夫か?ま、立っててもしゃーねーしとりあえず座んべ」

俺の隣にどかっと座り込む和成。参ったなぁとでもいうように髪をくしゃりと掻きながら、俺を見上げてお前も早く座れよと顎でジェスチャーされる。

「あ"〜!!つか喉渇いた!!秀一、お茶」
「持ってねーよ」

肩を並べて胡座をかき、くだらないやり取りをしながら二人してはぁ、とため息をついた。
そろそろ本格的にやばいかも知れない。俺は段々と口数が減り、それに比例するようにゾクリと悪寒がするのを感じていた。

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