10年愛




なんとなく嫌な予感はしてたんだ。
でもその虫の知らせが、まさかこんな形で現実になるなんて……全っ然思わなかった。



『日下部詩音(くさかべ しおん)くん、日下部詩音くん、放課後保健室まで来るように』

「うぇ〜詩音、呼び出しくらってやんの〜!」
「うっ、うるさいな」

背中を小突いてくる優馬をキッと睨みながら、あーぁやっぱり呼び出されちゃったかと肩を落とす。

なんで僕が呼び出しをくらったかって?それは……今日が最終受付日だったぎょう虫検査を、僕がずーっとすっぽかしてたから。
再三先生にも出すようにって言われてたけど、だってあれなんか恥ずかしいんだもん。
あー…怒られんのかな。やだな。

はぁ、とため息をつきながら僕は重い足取りで保健室のドアを叩いた。



10年愛



「……と、いうことなのでね、日下部…詩音君。お、いい名前だねぇ詩音。ふんふん……っとそれじゃあ始めようか!」

カルテみたいな何かにボールペンを走らせていた病院の先生が、保健室の一番奥のベッドへと僕を誘導する。
なんでもこのぎょう虫検査をして来なかったのは僕だけだったらしく、やむなく病院の先生がわざわざうちの学校まで僕の検査シールをとりに来たらしい。うえぇ。

うー……こんなことなら最初からやっとけばよかった。
眉間を寄せながらベッドにぽすんと腰をおろすと、先生はカーテンをさーっと引いてにっこり笑った。

「本来ならば実費でやってもらうことになるんだけどね…詩音君は特別だよ?」

なんだろうこのせんせ……普通に見たら格好良いんだと思うけど、なんかやたらうさん臭い感じがするな……。
眉を寄せながら先生をじっと見たら、先生はふわりと笑って「不安なのかな?ははは、誰も来ないよ」なんて言いながら傍らのイスに腰掛けた。

「…ぼ、僕、一人でやりますから……先生は出てって下さい」
「おや?なら最初からそうすればよかったのにねぇ?はは、冗談はさておき始めるとしようか!」

ね!と深く笑われて、僕は仕方なくズボンに手をかけるしかなかった。



* * *



「ちょっ!先生そっちじゃないよ!」
「分かっているともさ…いいじゃないか、少しくらい」

パンツまでおろして先生にお尻を向けようとしたら、まだいいよと手でお尻を撫でられた。
意味が分かんなくてそのまま動きが止まった僕を先生は抱き抱えて仰向けに寝かせる。そのまま前、を……

「っ!やぁっ」
「嫌じゃないだろう?ふふ、もう精通はしてるのかな?ここはまさか使ったことはないだろう?」

ふにふにと触られて、僕は涙目になりながら先生を睨む。そんなのお構いなしといった先生は、にこやかに僕のそれを揉んでいく。
人に触られたことなんかないそこは、初めての刺激にみるみるうちに大きくなっていった。

「…ぅあぁ」
「やらしいね、もうこんなにして」

満足そうに目尻のシワを深くした先生は、片手で僕のそれを扱きながら耳元に口を寄せる。

「こういうコトは、初めて?」

あ、当たり前だっ!小学五年で初めてじゃなかったらビックリだろ…っ。
おずおずと頷く僕に、「何でも教えてあげるよ。知りたくない?」と悪魔の囁きが聞こえてきた。思わぬ言葉にどきっと胸が騒ぐ。

「え…?」
「ふふ、君達の年頃だと興味津々じゃないかなぁ?」

私は秘密は守るよ、と微笑まれて、心の中でひたすらに迷う。
たしかに…ちょっとこわいって気持ちもあるけど、知りたい。クラスのみんなより先に知っておきたいってのもあるし、目の前に置かれた餌にただ飛び付きたいという欲もあった、と思う。

「どう?」
「う〜……」

それでもやっぱり恥ずかしさが邪魔をして曖昧に首を左右に振る僕の頭をよしよしと撫でた先生は、視線が合うなりふわりと笑って、その整った顔を下にさげた。

「わ…っ!だ、だめっ」

そ、そんな、舐めたりするとこじゃないのに!
ぱくっと口にくわえられて、一気に顔が熱くなる。眼下に広がる光景があまりにも卑猥で、初めての経験に全身が震えた。

「ひもひぃ?」
「あっ…ぅ…ん…っ」

根元までくわえられて、じゅぶじゅぶと音を立てながら舐められて、目だけこっちを見上げながらそう聞かれる。
あうう…やばい、こんなに気持ちいいことなんて初めてで、どうしたらいいか分かんなくなってきちゃった。

「あ…っ、あ…っあ…や、ぁ」

どんどん声が抑えられなくなる。
ここは学校の保健室だってことも、本来何をしに来たのかなんてこともすっかり忘れて、僕はただ与えられる快感に身を委ねていた。



「ん〜…っ!あっ…ゃ…あ…っ!あぁ!」

吐き出した熱を当たり前のようにごくごく喉に通してしまう先生に呆気にとられていると、先生は口元をサッと拭いたあと「じゃあ後ろ向いてくれるかな」と目を細める。

ついにきたか…!と思ったけど、ぎょう虫検査なんかよりもっとすごいことをしてしまった今ではもう、こわいものなんか何もないように感じた。

「は、はい」

くるりと半回転して、その場に膝を立ててお尻だけ突き出す。
先生がごくりと生唾を飲むのに僕は全く気が付かなかった。

「……?」

お尻に当たる感触は、検査シールのパリパリした感じじゃなくて…なんだろう、ごりごりした硬くてあったかい何かだった。
その正体を確かめようと後ろを振り向いたら……その……

「……!!」

先生は下着と一緒にスラックスを膝まで下げて、反り立ったアレを僕のお尻にあてがっていた。
驚く僕を知ってか知らずか、先生はゆっくりと腰を振ってお尻の割れ目あたりにそれを擦りつけてくる。むず痒いようなヘンな感覚に身をよじらせれば、はぁと熱い吐息が聞こえてきた。

「な、何をしているんですか…」
「はは、分からないかな?分からないよね……ごめんね、あんな格好を目の当たりにしたらもう…我慢出来なくなってしまって…」
「…?」

さっきは聞こえなかったぐちょっぐちょって音がお尻から聞こえる。

「詩音君がいけないんだよ、あんな格好で私を誘ったりするから…」
「え…さ、誘っ…?」
「…詩音君、さっきよりもっとエッチで気持ち良いこと、しようか」



* * *



空はいつの間にか赤く染まっていて、慌てて身なりを整え始める僕に先生は「車で送っていくよ」と眉を下げて微笑んだ。
大人の考えていることは僕にはまだよく分からないけれど、だから先生がさっきから言っている「ごめんね」の意味も理解できないけれど。

「そんな顔しないで」と先生の頭をよしよししたら、少しだけその曇った顔が晴れたから、いいやって思った。



「ねぇ先生」
「ん?」
「もう会えないの?」

帰りの車の中で、真っ直ぐ前を見ながら丁寧な運転をする先生にそう投げ掛けた。

「予防接種の日、休んじゃ駄目だよ」

先生はそう言って、困ったように笑った。



僕が家に帰ってからまず最初にしたことは、カレンダーで予防接種の日にちを確認することだった。









「……って事があって、」
「ふぅん、それで詩音はゲイになったと」
「まぁ……確実に影響されたよね、あれは」

優馬は特に驚くわけでもなく、何故か感心したようにカクテルグラスを口に運ぶ。

「お前モテんのに全然女っ気なかっただろ、やっと納得したわ」

はは、と苦笑いながら手元の時計を見ると、もう日を跨ごうとしている時間だった。

「じゃあそろそろ……」
「おう!久しぶりに会えてよかったわ!詩音の話、聞けてよかった」

小学校の頃から変わらない、屈託のない笑顔で優馬はニカッと笑う。
うっすら微笑み返して、伝票を手に静かに席を立つ。

「あ、お前帰りどーすんの?」
「えー…っと…」

迎えが来てるから大丈夫、と言ったら、多分全てを察したであろう優馬は「いいなぁ、すげぇ」とこぼす。

「一緒に乗る?送るよ」
「いーいー!邪魔しちゃわりーし、ぼちぼちタクシーで帰るわ」

ひらひら手を振りながら、優馬は「まだ飲みたりないから」とお代わりを注文していた。


今度絶対また飲もうと約束を交わして店から出れば、少し離れたところに見慣れた黒のポルシェが見えた。



「あ、ごめん待ったよね?」
「構わないよ、もうよかったのかい?」

ふふ、と笑うその姿は、あの頃より少しだけシワが増えた気もするけれど。

「うん、ありがと」
「じゃあ行こうか」

この人の格好良さと胡散臭さは、まだまだ現役なんじゃないかなぁと思う。





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