互いの利益のために02
「なぁ」
あれから30分くらい経っただろうか。今だに俺達はエレベーターに閉じ込められたまま、まんじりともせず、ただぼーっと暗いドアの向こうを眺めていた。
沈黙を破ったのは言わずもがな和成で、その口から飛び出た言葉は俺の想像の斜め上をいっていた。
「秀一、おしっこだいじょぶ?」
「あ〜…正直限界」
「だよな」
「ん」
今、腹押されたら確実に出る。つかいっそ一歩も動けない気がする。身体に振動を与えられただけで条件反射で膀胱が緩みそうなくらいヤバイ。
「俺さ、喉渇いたんだよね」
「あぁ、さっきから言ってるな」
「んで、お前はおしっこがしたい」
「…?何が言いたい」
眉を寄せながら横を向くと、好奇心たっぷりではあるがどこかこちらを窺うような……微妙な面持ちの和成と目が合った。
「おしっこさ、すれば?」
「は?ここでか?」
何を言い出すんだこいつは。こんなところでしたら救出された時速効でバレるだろうが。あー我慢できなくておもらししちゃったんだねぷぷぷーとか思われたら恥ずかし過ぎて死ねる。マジで死ねる。というよりそれ以前の問題だ。
「そ、ここで」
「いやいや無理だろ」
片手をひらひらさせて軽く受け流す。俺の尿意を気にしてくれてたのは有り難いけど仕方がない。こればっかりは、な。
こんなことならエレベーターに乗る前に、汚かろうが怖かろうが素直に便所行っとくんだった。
そう後悔しながら隣を見れば、こめかみをポリポリかきながら何かを言い淀む和成の姿。
「や、だから…」
「なんだよ?はっきり言えって」
「秀一が出したら、それ、俺飲むから」
「………………………は?」
たっぷり数十秒固まったあと、俺は訝しげに和成を見つめる。いつだって高確率でおちゃらけている奴だが、今回ばかりはそうでもないらしい。
「本気で言ってんのか」
「…冗談でこんなこと言うワケないっしょ」
恥ずかしいのかなんなのか、少し悲しげに笑った和成はそのままゆっくりと俯いた。
正直に言おう。正直に言えば、あながち悪くない選択肢なのかも知れないと思っていたりする。もう本当いい加減我慢の限界だし、いつ助けが来るのか分からない以上今取れる最善の策かも知れない。
人間、窮地に立たされるととんでもない行動に出たりするものなのだ。
「あ〜…………」
「なんだよ」
「あ〜……その、なんだ」
無意識に後ろ髪をいじりながら、俺はどうやってこの案件を飲む旨を伝えるべきか迷いあぐね、尻窄まりに言葉を詰まらせた。
「秀一、」
瞬間、隣に座っていた和成は俺の名前を呼ぶと同時にごそごそはいつくばりながら真正面まで移動して、肩をがしりと掴んできた。
「なっ、なんだよ」
「言うまでもないけど、二人だけの秘密な」
「あ、あぁ………っ!?」
真剣な面持ちで固い約束を交わしたかと思ったらそのまま身体を引き寄せられ、急な出来事にバランスを崩しかけた俺の顔に和成の手が伸びて――
「……っ!?な、おまっ」
「へへ、チューもらいっ!」
何故かこのタイミングで、というかタイミングもくそもないけども、俺はファーストキスを親友に奪われた。
そして当人は飄々とした顔でゆっくり俺のベルトに手をかけ始めた。
あまりに突然の出来事に、脳みそがうまく状況を把握仕切れていないままぼーっとしていると、脱がすよ?と小さく問われて意識が現実に引き戻った。
「な!ちょ、待っ……自分で脱ぐ、から」
やんわりと手を押し戻すと残念そうに唇を尖らせる和成。
なんかちょっと雰囲気おかしなことになってないか?大丈夫かこれ、もしかして俺達とんでもない扉開こうとしてるんじゃ……
「ほら、早く脱げよ?」
「あ、あぁ」
もそもそとジーンズをずらしながら気付いたが、これ和成が直接俺の息子を銜えなきゃ無理だよな?
え、和成お前分かってるのか。
「秀一さぁ、もしかして今気付いたっしょ」
「な"っ…」
俺の考えていることを悟ったのか、和成はにししと人の悪い笑みを浮かべる。
「お前って案外ぬけてるよな、まぁいいけどホラ、早くちんこ出せって」
躊躇いもなく催促をされて、改めて今からすることの大きさに、じわじわと執着心が覚醒していく。
「あ〜…和成くん?やっぱり」
「駄目とか無理とか言わせねぇよ?恥ずかしいとかもなし。っつか俺のが恥ずかしいっつの、いい加減俺も我慢できないからホラ、早く」
言おうとしたことを先に言われ制止されてしまえば、俺はぐっ…と口を引き結むことしかできなかった。
それでもなかなか動かない俺に痺れを切らしたのか、半ば強引に和成の手が俺の下肢にかかる。
太股をぐっと左右に開かれてフロント部分を曝け出す形にさせられ、なんかもう自分がいたたまれなくなって俺はじわりと目を伏せた。
「な、お前も辛いっしょ?秀一……いい?」
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