生真面目ホワイトチョコ




昔から、真面目だねと言われることが多かった。その所為(せい)か、小学校・中学校ではまともに友人と呼べる存在すら居なかった。

しかし高校生になってからは、僕の性格を理解してくれる有り難い友人もちらほらと出来て、とても充実した日々を送れていた。

だからといってバレンタインデーなどという浮足立ったイベントなど、僕には到底縁の無いものだとばかり思っていたのだが…。





ホワイトチョコ



むむむ…。
もう明日は三月十四日…ホワイトデー当日だというのに、僕は未だ自分の気持ちを上手く整理出来ずにいる。

思い起こせば一ヶ月前、クラスの友人高橋君にバレンタインデーのチョコレイトを頂いたのがきっかけだった。


僕はふと、毎日欠かさずに書き溜めている日記帳をパラパラめくってみた。


2月14日火曜日
『なんと高橋君にチョコレイトを頂いてしまった!かたじけない。美味であった。しかし、高橋君は本命チョコとして僕にこれを贈ってくれたらしい。どうしたものか』


2月15日水曜日
『昨日の今日だというのに、高橋君はいたって普通に僕に接してくれる。なんと心の広い人間なのだろうか。僕も彼を見習いたい』



高橋君…。彼は今何を思っているのだろうか。そんな事を考えながら、またペラペラと日記帳に手を伸ばす。


2月20日月曜日
『ぼんやりと教室内を眺めていただけのはずなのに、何故だか今日はよく高橋君と目が合う。あわてて視線を逸らしてはみたが、この心臓の高鳴りは何なのだろう』



2月24日金曜日
『二日連続で高橋君に「一緒に帰らないか」と誘われたのだが、なんだか彼と二人きりになるのは緊張する。…二度も続けて断ってしまった。嫌われてしまってやいないだろうか、心配だ』



2月29日水曜日
『今日の朝「閏年だなー!」と、高橋君から話し掛けられた。きちんと答えられていただろうか。心臓の音が邪魔をして、あまり覚えていない。それにしても、高橋君とまともに会話をしたのはあの日以来な気がする』



なっ…なんなのだ…なんなのだこれは。あの日から日記の内容が殆ど高橋君の事ばかりじゃないか。
そういえば、先日購入した書籍にも「好意を持たれると自然に自分も意識してしまうもの」と書いてあったな。うむ…やはり僕は、彼を意識していたのだろうか。

…はっ!なななななんだこれは…。高橋君の事を考えた途端、な、なんなのだこの心臓のドキドキは…!くっ、苦しい…。
何か病気にでもかかってしまったのだろうか。いかん。保険証はどこに仕舞ってあったかな…。

僕は、早速病院へ出向く為にリビングへ保険証を取りに階段を下りる。そこには中学生になる僕の妹が居て、僕が保険証を持ち出すと「どうしたの?」と心配そうに顔を覗かせた。

「あ、いや…なんだか胸がドキドキするのだ…」
「お兄ちゃん、それってさ、恋患(こいわずら)いなんじゃないの?」
「な、なんなのだその病名は…いかん急いで病院へ行かねば」
「違うよお兄ちゃん!それはね…――」

恋をしていると掛かってしまう病気、だそうだ。そしてこの病気を治せるのはその恋の相手だけ。お兄ちゃんも恋してるなら気持ちを伝えてみたら良いじゃない。と、そう諭されてしまった。

「お兄ちゃん、心当たりがあるのね?」
「なっ、なっ、そそそそんな事は」
「いやいや私には分かるよ〜?伊達に妹やってないからね、どうせお兄ちゃんのことだからバレンタインにチョコでも貰って意識し始めちゃったとかそんなんでしょ!丁度明日はホワイトデーなんだから、病院行くなんてバカみたいなこと言ってないでお返しのプレゼントでも買って来たらどう?」
「む……ぎ、御意」

見事だ…。流石は僕の妹。全てお見通しのようで恐れ入る。しかし、もう既にお返しのプレゼントなら用意してある。いや、でもまだ足りないのだな。
僕が購入したのはデパートのホワイトデーフェアで売られていたホワイトチョコなのだが、僕はまだ、買わねばならぬ物があったようだ。
これは、妹に感謝せねばいけないな…。




「おーーい!」

次の日、ホワイトデー当日。
高橋君の家の近くにある公園で、待ち伏せるかのように彼を待っていた僕は、遠くから聞こえるその待ち人の声にハッとして視線をやった。

「たっ、高橋君」
「ん?」

そして、首を傾げながらこちらを見遣る彼に昨日用意したプレゼントをそのまま無言で渡しつけ、は、は、恥ずかしさのあまり「これにて失敬」とだけ残して逃げ去ってしまった。
嗚呼、意気地の無い僕を許してくれ、高橋君。




僕が自宅に帰り着いたそんな頃、高橋君から電話が掛かってきた。

「もっ、もしもし」
「あー俺。さっきはありがとな!」
「あーいや、こちらこそ」
「えっと、あれ見たんだけどさ」
「あ、あぁ」
「どゆこと?」
「あー…あああああ、高橋君」
「ん?」
「誠に恐縮な話なんだが…」
「うん?」
「なにやら、僕は恋を患っているらしくてだな…」
「?」
「…それは、妹曰く君にしか治せないそうだ」
「えっと、それってどういう」
「ふつつか者ですが高橋君」
「ちょ、ちょっと待って?ちょっとよく話が見えないんだけどそれって、友達としてこれからも宜しくって受け止めてオッケー?」
「ああああいや違っ…」
「違うの?」
「あの、僕はつまり――」


――どうやら高橋君のことを好いているようで――



やっと、やっと気持ちが伝わった。

世の中には不思議なことが沢山あって、僕はまだまだ勉強不足のようだ。
そうだな…まずは、恋愛指南本を買いに行かねばならないな。



『拝啓――高橋君

先月はどうもありがとう。


ふつつか者ですが、これから宜しくお願い申し上げます』




---fin---



ホワイトデーということで、バレンタインに書いた「生真面目チョコレイト」の番外編というかホワイトデー編です。
ちょっと分かりづらいと思うので補足。最後の『拝啓――高橋君』は、お返しのプレゼントの中に入れたメッセージカードの中身です。一応。
二人はまだまだ、これからですね。


→次ページは、この「生真面目ホワイトチョコ」の爽やか君視点の裏話…というかボツにした作品をこっそり置いてあります。おまけとして見ていただけたら嬉しいです
その更に次のページにはまた続編があります*

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