暑苦しいキミ 続編






「ちょ……待っ……」

オレは走っていた。いや正確にいうと、もう既に歩いている。

がやがやと同年代の奴らで賑わっているカラオケ店の人気の少ない三階の廊下で、オレは細谷を追い掛けていた。

「うっわ、行き止まり」
「おまっ…バ…カだろ…っ」

廊下の突き当たりで途方に暮れたようにガクリと頭を垂れた細谷は、そっちに向かって真っ直ぐ歩いて来るオレを確認すると観念したようにその場にしゃがみ込んだ。

「明クン…いつまで息切らしてんのよ」

ようやく細谷の目の前まで辿り着いたオレは、「うっせ」とだけ言った後そこで腰を落として細谷と向かい合う形でしゃがむ。
すると細谷はオレからの視線から逃れるように、ずるずると膝に顔を埋めてしまった。

「…おい」

何度か言ってはみたものの返事は返ってこない。つか、身じろぎひとつ起きやしない。

ったく……。細谷、お前は何のつもりなんだ、どういうつもりなんだ馬鹿細谷。
借り物競争の一件からずっと、……運動会が終わってこうして打ち上げでカラオケに来て二時間が経過した今までずっと、ろくに目も合わせやしないしひたすらにこれみよがしにわざとがましいにも程があるってレベルでオレを避けまくるとは。

「バカ細谷、いい加減顔上げろ」

ゆっくりと擡げられた顔がじとりとオレを見たと思いきやこれまたゆっくりと視線が泳ぎだして、遂にはまた顔が膝の間に埋もれていく。

「……んだろ」
「あ?何?」

蚊の鳴くような細谷らしからぬくぐもった声でぼそりと何かが聞こえたが、全然まったく聞きとれない。いつもはうざい位煩いくせに、今日はしおらし過ぎる。

「だ…から…っ!分かんだろ…!」

そう言ってガバリと上げた細谷の顔は、今まで見たことが無い程に赤かった。



「暑苦しいキミ」
     リクエスト番外編




「は?何が?」
「何がって…え、明クン…」

キョトンと目を丸くするオレに対し、えらく呆れたように細谷はハァと息をつく。わざとらしく頭を抱えるポーズをとった後、意味分かんねぇよとばかりに頭を掻いていたオレにぐぐいと近寄り、肩と肩が触れ合うくらいに距離を詰めてじっと至近距離で見詰めてきた。

「なっ…んだよ。つか、」
「なぁ、マジで分かんないの?明」

オレの言葉を遮るように出された声は少しだけ震えていて、いつもの細谷の自信たっぷりな表情とはまるで違う真剣な様子に、ちょっとした違和感を覚えた。
つか、近ぇ。顔ちけーんだよバカ細谷。

なんとなく少しだけ気恥ずかしくなった気がしたオレは、鼻の下を指で擦りながら小さく「分かんねぇよ」とだけ答えた。

「なんだよ…バレてなかったのかよー…っあーっもう!」

そう言うなり細谷はわしゃわしゃと自分の髪を乱して、それからずるずると視線を下にさげた。
さっきから細谷の言動が意味不明すぎる。だから今日あれっきりオレをずっと避けてた理由はなんなんだよ。説明しろ。

理解不能な細谷に焦れったくなったオレは、奴の頭を両手でがしりと掴んで無理矢理顔を上げさせた。耳まで真っ赤にしてこいつ…どうしたんだ。…あ、

「細谷お前熱でも」
「ちっ…げーよアホ!」

なんだよアホって。条件反射で眉間に少し皴を寄せたオレはそのままの体勢で口を開く。

「じゃあなんなんだよさっきから…言いたい事あんなら早く言え」

じーっと細谷に目を合わせたままそう聞いた。
オレの言葉に果てしなく戸惑いというか迷いというかすんげぇ言いづらそうにしながらも、オレからの無言の圧力に根負けしたのか細谷はやっと言葉を発した。

「す…好きなんだよ!」
「誰が」
「俺がっ!」
「誰を」
「〜〜っ」

またずるずると下がり始める細谷の視線。よく見てみればさっきよりだいぶ顔が赤くなっていた。

「普通ここまで言わすか?」
「は?言わねぇと分かんねぇだろ」
「だから…っ」

キッと細谷の目がこちらに向く。眼鏡のレンズの奥に光る瞳は何故か潤んでいた。

「明クンのことが……き」
「っは?」
「好き!………なんだよ…っ」

言ったきり、また細谷は顔を膝に埋めてしまった。



つか…え、ちょ、え、ちょっと待て。

「ちょ…細」
「いーいー何も言うな」

伏せられた顔からくぐもった声が返ってくる。


好き?細谷が?オレを?


ぐるぐると三つの単語が頭の中でひたすらに巡って、やっと一つの答えに辿り着いた。





「………な、ちょ…え…」

「明クン…顔赤い」





---fin---





なんかもう傍から見てると焦れったすぎて「んああ!」ってなる感じを目指しました。明くんはやっと細谷くんの気持ちに気付いたわけですね遅い…っ!
こちらはリクエストいただいたものになります。匿名様、リクエストありがとうございました!





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