ヤンデレ美形不良×平凡




どこにでも、ちょっとレベルの低い学校なら“不良四天王”ってのはいるもんで、それはうちの高校でも例に洩れずそうだった。四天王なんつってもうちの高校のはトップが一強らしくて、そいつばかりが良い意味でも悪い意味でも目立ってんだけどね。



「小田切〜帰んぞぉ」

オレは隣のクラスにいる恋人にそう声をかける。
肩まで伸びた金色の髪をなびかせながらこっちにスタスタ歩いてくる小田切の顔は、心なしか沈んでいた。

「ごめん……ちょっと用事が、」
「はぁ?また喧嘩?」

バツが悪そうにこくんと頷く当学校四天王最強の男は、こうして見てるとただの草食系のイケメンモデルとかにしか見えない。背ぇ高いし細っせーし、とてもその長い腕から繰り出される拳が最強だなんて信じらんねぇ。

「本当にごめん!」
「や〜…まぁいいけど」

でも、忙しなく廊下をずんずん歩く小田切にぶつからないように生徒達がみーんな避けているその様は、紛れも無くアイツが四天王の座にいることの証明なんだろう。



ヤンデレ美形不良×平凡



小田切はオレと付き合っていることは絶対秘密にしろと言った。それは小田切の立場的に、他校の不良が真っ先に目を付ける対象になってしまうからだそうだ。仲の良い友達ってだけでも本当は危ないけど、恋人ってことがバレたらどう目を付けられていつ襲われるか分からないから、って言ってた。
平々凡々なオレには不良達のアレコレなんか知る由もないけど、小田切があまりにも苦しそうにそう説明するから、頷く以外の選択肢がでてこなかったわけで。




「あ〜!笹原じゃ〜ん!」

一人寂しく駅のホームに佇みながら思案に耽っていたオレの耳に、懐かしい声が届いた。
中学の時のクラスメートの山崎。まぁそこそこ仲もよかったけど、別々の高校になってなんとなく疎遠。まぁよくあるやつだ。

「お〜久しぶり」
「なー!久しぶりじゃ〜ん!なに、笹原こっちの電車なん?」

久々に会った山崎との会話は楽しかった。小田切と一緒に帰れなかった寂しさも紛れたし、まぁ普通にコイツ面白いヤツだし。
気付けば電車はもう自分が降りる駅に着くところで、急いでメアドだけ交換して電車から降りた。




――と、そこには小田切がいた。

「…!小田切おめ、いたんなら声かけろよ!っつか一緒帰れたんじゃねーかオイ!」

わざとらしく肩を小突いてみると、小田切はわなわなと震えているらしいことが分かった。

「は、何どうした…ってぇ!なんだよ?!」

無言のままオレの手首を引っつかんだ小田切は、男前台なしのすごい形相でホームの階段をのぼる。
なんで小田切がキレてんのか分かんないし、腕は痛いし、状況が全く飲み込めないままオレは小田切に連れられて人気のない小道まで歩かされ、そこで漸く手が離された。

「…っだよ、つか…ちょ〜…これ痛いんだけど」

ほんのり赤く跡が残った手首をひらひらと掲げながら、コンクリートの壁に背中を預ける。
眉間を寄せながら見上げたそこには、オレよりもっと眉間にシワの寄った、あまりにも真剣で鋭い眼差しがあった。

「……ねぇ笹原」
「なっ…んだよ」

やっと口を開いたと思えば何その低い声。小田切お前そんな低い声出んのか。すげぇ怖いんですけど。

「…さっきの人、誰?」
「はぁ?」

何言われんのかと思えば、なんだそんなことか。

「ね、誰?」

少し顔の緩んだオレに、小田切は更に不機嫌そうに声量を上げる。

「は、同中のやつだよ」
「名前は?あの制服…広陵生だよね?男子校でしょあそこ」

小田切の声色がどんどん重くなっていく。

「んぁ?あーそういや男子校だっつってたな」
「名前は?」
「やっ、山崎だよ…」

ふぅん、と呟いた小田切はバンと壁の横に手をつけて顔を近付ける。
ふわりと爽やかな香水の香りが鼻をくすぐって、でもそれを味わう暇もなく強引に唇を奪われた。

「んっ!」

がむしゃらに貪るような激しいキスを何度も何度も繰り返されて、ようやっと唇が離れた時には体中あらかたの酸素を小田切に吸い取られてしまったかのように荒い呼吸になってしまう。

「…っは、な、どうしたんだよお前…」
「ね、山崎クンと何話してたの?楽しそうに肩寄せてさ…ね、何をあんなに笑顔で話してたの…?教えてよ…」

縋るようにオレの胸倉を掴んで、そう呪文みたいに低く何度も問われる。

「な、や別に普通に喋ってただけだろあんなん…久しぶりに会ったから話弾んだってだけでそもそも大した話なんかしてな」
「俺ずっと見てたんだよ?電車降りる時アドレス交換してたよね?俺の知らない人と…俺の居ないところでさ……」

どんどん小田切の顔が俯いていって、あぁなんかこれは本格的にまずい、と、直感でそう思った。

「わ、悪かったって!お前がいんのも気付かなかったしさ、ほら、そもそも俺は山崎なんかよりお前と一緒に帰りたかったんだから…な?」
「…山崎クンより俺が好き?」

小田切の前髪に触れながらうかがうように覗き見れば、据わった目がじとりとこちらを向く。

「あっ当たり前だろ!お前がイチバンだ」
「……本当?」

そういって俺の右手をガッと掴んだかと思えば、もう片方の手まで押さえられて…あっという間に小田切の片手で俺の両手を頭の上で纏められた。力すげぇ。

「ちょ、何すんだよ」
「ねぇ本当…?あわよくば山崎クンと仲良くなって俺を捨てようとか考えてない…?笹原にはあんまり見せないようにしてたけど、俺結構強いんだよ…?このまま笹原の手首を折ることも簡単だ…」

ちょ、まじ何こわいこと言ってんだ!
握られる手に力がこもって、俺は分かりやすくビクついた。

「何…俺の腕折んの?」
「まさか…そんな痛いことしたら可哀相だもん…でも、」

一瞬ふわりと微笑んだあと、すぐに真逆の表情に変わる。

「俺から離れようとするなら…」
「だぁから!離れないって!」

俺は必死に声を張り上げて、一瞬拘束されていた手が緩んだスキにその手から逃れて思いっきり小田切を抱きしめる。

「笹原…っ」
「そんな不安にさせてたんだな、ごめん」

ゆっくりと背中に回った小田切の腕の感触は、もうさっきまでの狂気じみたそれではなくなっていて。

「好きだよ、小田切…」

小田切の啜り泣く声だけが、薄暗い小道に鳴り響いていた。



* * *



「さっきは、ごめん…」
「んあ?いいって」

あのあと、気を取り直してオレんちに来た小田切は、そう申し訳なさそうにクッションを抱きしめる。

「笹原をどこかに隠して、もういっそ閉じ込めてしまいたいよ」
「うへぇ!こえーこと言うなぁ」

にたりと口を三日月型に上げた目の前のキンパツ男は、冗談だと思ってるの?とこちらににじり寄ってきた。

「冗談じゃねーの?」

四つん這いでこちらにやってくるでかい犬をあやすように抱きしめながら耳元で囁けば、

「ふ、どうかな…」

意味深に笑われて、少しだけ背中に冷や汗を感じた。

「そっか」

まぁでも…小田切、お前になら何されたって文句はねぇよ?
覚悟だけはしといた方がいいのかななんて人事のように考えながらオレは、胸の中に埋もれたワンコをよしよしと撫でていた。



---fin---



ヤンデレ美形と危機感の薄い平凡。すっごい暗いエンディングも思い付いていたのですが、さすがに私の中でNGがでました(笑)いつか書いてみたいです
匿名様、リクエストありがとうございました!



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