生真面目チョコレイト 番外編



*こちらは短編小説の「生真面目チョコレイト」の番外編です。是非本編からどうぞ*



「あっやべ」

全ては此処から始まった。
体育の授業内でのドッチボール中、外野の放ったボールがすこんと敵陣営をすり抜けて見事に僕の顔面に命中した、この出来事から。

「うわっ大丈夫かー?ごめーーん!!」

顔から頭にかけてじんじんと痛みが走る。薄れていく意識の中聞こえてきたのは、ごめんと大声で謝るクラスメイトの声よりも、こちらに大急ぎで駆けながら叫ぶ高橋君の「大丈夫かあああー?」という必死な声だった。

彼の、こういう優しいところが僕はとても好きだ。ドッチボールで顔面を当てられるなどという失態を侵し、更にはその場にずっこけるという情けない様を見せているのにも関わらず、高橋君は一目散に僕の元へ来てくれてこんな僕の心配までしてくれる。なんて優しい人なのだろう。

「大丈夫?頭とか打った?」

僕の頭を心配そうに見つめながら、そう至極優しい声が降ってくる。最初の質問に頷き、次の質問にはふるふると力無く首を横に振れば、良かった、と目を細める高橋君。

「っつか高石お前マジふざけんな顔面狙うとか卑怯だろマジで何かあったらどーすんだよ〜……」

ため息を吐いてから、何を思ったか高橋君はよし、と小声で呟く。
何事だろうかと高橋君を見上げれば、次の瞬間、高橋君はあろうことか僕の体をひょいっと担いでしまった。

「ぅわっ!ちょ、ちょっと高橋くん…!」
「いいって。一応保健室連れてくから」

慌てて足をじたばたと動かしてみても、所謂お姫様抱っこの状態で担がれてるとあってはあまり意味を為さないらしい。僕の抵抗にびくともせず校舎へとずんずん歩いてしまう高橋君は、えっと、その、とても格好良かった。まさに男らしいという言葉がぴったりで、ドッチボールの球なんぞでふらふらしてしまう僕なんかとは比べものにならない。

「たっ高橋くん…申し訳ない…その、重いだろう?一人でも歩けるからしてその」
「黙って俺に抱っこされててよ。ね?」

遮るようにそう言われてしまっては、黙って頷くしかないというものだ。
高橋君、本当に重くないだろうか…。いくら自分が痩せ型の体型とはいえ、男子高校生一人を担ぐのは骨が折れる筈だ。本当にかたじけない……





目チョコレイト
 番外編




運悪く保健医不在のこの空間には今、僕と高橋君の二人きりしか居ない。
看護教諭がいないのでは、と踵を返そうとする僕を「そんなの俺に任せてよ」と高橋君が呼び止めてくれ今に至るのだ。なんと心強い。

椅子に座る僕の正面に立って頭に異常が無いか目視と触診で診てくれていた高橋君が、ふと視線を下にやった。

「うっわ、膝も擦りむけてんじゃん!見して」
「ん?あぁ、問題ない」

大丈夫だと微笑んだら、高橋君は切なそうに眉をひそめて首を振る。

「問題なくない。俺が心配だから。ほら、見せて」

こんな、ちょっと膝が擦りむけた程度なのに。一端の男である僕を、高橋君は壊れ物を扱うかのように、本当に大事にしてくれる。

「い"っ…」
「しみるけど我慢して」

ジュー、ジュー、と消毒キットがじゅわじゅわと膝のえぐれた部分を泡で覆っていく。正直痛むけれども、こんな痛みよりも高橋君の優しさの方が余程痛み入るというものだ。本当にかたじけない。

眉を寄せながら眼下に佇む高橋君の頭頂部をじっと見ていたら、

「ね、」

ふとその頭がばっと上がって、悪戯そうな笑みと共にこんな言葉が投げ掛けられた。



「なんかこのシチュエーションってさぁ、アレじゃない?」

僕はどうも読解力に乏しいらしい。アレとは何を指すのだろうか。主語がシチュエーションなわけだから、述語がアレにあたって……むぅ、難しい。

「え、と…ちょっとよく分からない」
「えっ!マジで?」

こくりと頷けば、困ったなぁとばかりに後ろ髪をがしがし掻いた高橋君は、立て膝をついた状態のままがしっと僕の太股を掴んでみっともなく開いていた両足を閉じてくれた。

「ぁ…は、た、高橋くん…?」
「わり!やーちょっと目の毒過ぎてさ…」

ははと苦笑う高橋君。
申し訳ないことをした。そう思った。
この学校の体操着は上がただの白い生地の布で、下は紺色の膝上丈程のズボン。基本的にサイズに余裕がある為、だらんと両足を広げて座っていたのではそこに立て膝をついてしゃがんでいる高橋君からはその……大層みっともない姿に映ってしまったことと思う。

「申し訳ない……情けない姿をこうも立て続けに…」
「んあ?」

首を傾げながらこちらを見上げる高橋君と、ばちりと視線が交差する。ぱちくり瞬きをする彼の表情は、“君の言ってることが分からないよ”とでも言っているかのようだった。

「ん…いや、ほら、ボールが当たって転んでしまったり、だ、だ、抱っこ……とか…しかもこんな、消毒までしていただいて…してもらってる立場でこんな足を開いて座るなど失礼極まりなかった、申し訳ない」
「ははっ、やっぱ勘違いしてる」
「…?」

綺麗に揃った白い歯を見せて可笑しそうに目を細めた彼は、すくりと立ち上がって傍らにあるベッドに腰掛けた。

「ぜってー分かってないと思ってたけどさー」
「なっ…な、何のことか分からない…から、教えてくれないか」

まだ小刻みに肩を揺らす高橋君を困った顔で見つめる。
しばらく窓の方を見ていた高橋君は、僕の視線に気付くとふわりと微笑んで手招きをした。
吸い寄せられるように隣に座れば、高橋君は耳に口を寄せて「な、キスしていい?」ととんでもない事を口にする。

「…っ!!!」
「だめ?」
「そんな事は、ない…」

そっか、と嬉しそうな声がしたので隣を盗み見ようとしたら、急に腕が僕の肩に回されてぐいっと引き寄せられ……状況を脳が認識する前に、僕は人生二度目のキスの味を知った。

「んっ…」

肩にあった高橋君の腕がするすると背中まで降りて、優しい手つきで撫でられる。
今度は意識を失ったりしないように気をつけながら、たどたどしくもその骨ばった背中に手を回してみた。

「…っ、ん……」

一瞬のその行為を、角度を変えながら何回も繰り返した。唇が離れていく度に欲情の混じる吐息がどちらからともなく漏れ、今まで経験したことのない熱い何かが身体に走るのを感じる。
接吻というのはこんなに欲望が解放される行為なのだな……前の時、意識を失ったりして本当に申し訳ないことをした…。



「っ…、はぁ…」
「…ね、口あーってして?」

ふいにそう言われ、言われた通りに薄く口を開いてみれば、

「んむっ…んぅ」

先程より深いキスと共に、口内に熱くて肉厚のものが挿入される。
貪るように伸びてくるその舌は、僕のそれと粘っこく絡まり合って互いの唾液を混合させながらうごめいていく。くちゅくちゅとした水音がダイレクトに脳に響いて、身体の芯から熱くなってしまう。
な、なんだこの感触は…あまりに官能的過ぎて…や、やばいまた意識が飛びそうだ……

「…っ、はぁ、はっ…た、たかはし、君……」

そろそろ本当に意識が持たない気がしたので、ゆっくりと顔を離しながら目の前の人をおずおずと見つめる。
高橋君は「なに?」と首を傾げながら目を合わせて優しく微笑んでくれた。

「ま、また気を失ってしまいそうだったので…」

言いながら、なんとなく高橋君の顔を直視できずに俯いた。
すると、

「あーもぅ本当やばいなー…」

そんなことをぶつくさ放つ高橋君にぎゅうっと抱き包まれていた。
彼の中でどういう経緯があって抱きしめられたのか分からず、すぐ目の前にある広い胸の温かみを感じながら目を閉じ、本当にすまないと呟けば、

「そういうとこ」

ゆっくり身体を離した高橋君が、僕の鼻を人差し指でちょんとつついた。

「……?」
「ほんっとに可愛い」

ふっと高橋君が笑う。いつもとは違う、色っぽい笑いに思わず胸がどきりとした。

「かっ、可愛くなど…ない」
「可愛いよ。俺の理性が持つ内に、もっともっと俺に慣れて欲しい」
「むぅ…善処する」
「そのうち俺マジで我慢できなくなりそーだから…」

覚悟だけはしといてね、と、耳元で囁かれた。
一瞬で赤面する僕を見て満足そうに口角を上げる高橋君が、名残惜しそうに僕に触れるだけのキスを落とす。

「それが直ったら戻ろっか!そんな顔、俺以外のヤツに見せたくないし」

ニカッと笑って、僕の頬に手を当てる。

二人並んで窓の外をしばらく眺めていた。雲ひとつ無い澄んだ空は、まるで僕の心の内を表しているかのように綺麗だった。



---fin---



去年(2012年)のバレンタインに生まれたこの物語が、また今年のバレンタインにも書くことができて幸せです´`*
プー子様、リクエストありがとうございました!



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