弟Festival 番外編 01



目の前のデスクに広げられた膨大な書類の山に、俺はただただ愕然としていた。隣の席の同僚が憐れみの意でポンと肩を叩いてくる。

やばい!俺は今日、定時に上がれないかも知れない…!

自慢じゃあないが、俺は今まで残業をしたことがない。定時までに仕事をキッチリ終わらせることに命を懸けていると言ってもいい。
その理由は勿論、両親も共働きで家に誰も居ない中一人寂しく(俺の帰りを)待っている優の為なんだけども!
まだ小学生である優を夜遅くまで家に一人で居させるとか可哀相過ぎる!絶対駄目!優と一緒に居たいよお兄ちゃんは!むしろ会社なんか行かずに優の傍にずっと一緒に居たいよお兄ちゃんは!



弟Festival リクエスト番外編



っという訳で、俺は泣く泣く自宅の電話に留守番を残して今、残業タイムに入りましたああぁぁ!
はぁ。目の前のパソコンと書類に目を光らせながらも頭の中は優のことでいっぱいになりすぎて、おかしくなりそうだ。

両親は今日も夜中過ぎるまで仕事で家には帰れないだろうから、優は今一人でお家に居るんだろうな、寂しいかな、寂しいよね、あぁごめんな優!お兄ちゃん一刻も早く仕事片付けてお土産にケーキ買ってすぐに帰るからね!待ってて愛しの優ぅぅ!





――只今時刻は夜の23時。
そろりそろりと玄関の鍵を開けるとそこには――


「ゆ、優……!」

玄関の前で毛布に包まりながらうとうとと寝息をかく、我が愛しの優がそこには居た。

あぁ、玄関は冷えるだろうにわざわざ毛布まで引っ張ってきて、あぁ、その重い毛布を持って来るのだって大変だったろうなそうだろう。

なのに何この健気な姿は…!

俺が玄関で口に手をあて一人感動に浸っていると、何かを察したのかもぞもぞと毛布が動き出した。

「に、にぃ…?」

虚ろに開かれたその麗しい瞳に、泣きながら玄関のドアの前に情けなく佇む俺の姿が映る。

「ゆ、優…!」

思わず毛布ごと力一杯に優を抱きしめた。優もやっと頭が覚醒し始めたのか、ぎゅーっと俺の背中に添えられた腕に力がこもる。
「待たせちゃってごめんな」と言おうとした矢先、優はゆっくりと互いの体を離し、極上の笑顔でこう言った。

「おかえり、にぃっ」

キラーン☆と漫画なんかでよくあるキラキラが見える。お兄ちゃんには見えるぞ優!
はぁあぁ何ていうこのいじらしさ!玄関で待ってくれてるとかもう考えもしなかったよお兄ちゃん!

「おつかれさま!」

嫌な顔一つせずそんな労いの言葉までかけてくれる優に、遂に涙が止まらなくなった俺はヒクヒクと気持ち悪い嗚咽を吐きながら、やっと靴を脱いで玄関に上がる。

「にぃ…?どうしたの?どこか痛いの?」

玄関に膝をつく俺の頭をよしよしと撫でながら、心配そうに顔を覗き込んでくる優の両頬を手で包み、たまらず俺は噛み付くようなキスをした。

「…んんっ…んぅ」
「っ…んっ…はぁ…っ」

少し乱暴で貪るようなキスに一瞬驚いた顔を見せた優も、次第にそれに応じるように舌を絡め始める。
暫く濃厚なそれが続いた後、後ろ髪を引かれる思いで離された唇は混ざり合った唾液で濡れていて。思わずゴクリと生唾を飲んで優を見詰める。優もトロンとした目で俺を見詰め返し、視線が絡み合う。

「優…」
「僕ね、にぃにおやすみが言いたくて起きてたの」

そう言ってニコリと笑う優の笑顔は、何よりも、誰よりもキラキラと輝いていて、一瞬で俺の心をわしづかみにしてしまう。

「優…っ!お兄ちゃん帰るの遅くなっちゃってごめんな?よしよし、明日は休みだけどもう遅い時間だから寝ようか。ケーキ買ってきたから明日一緒に食べよう!ほら、先に部屋に行って?」

俺の言葉に満足そうに笑みを浮かべて、廊下の奥に消えて行く優の背中を見ながら、しみじみと幸せを噛み締める俺なのであった。





―ガチャ

「〜!? 何この毛布は!卓也が出したの?」
「あー母さんおかえり違うんだよこれには深ーい事情があって」
「はいただいまっ、何なのその事情とやらは」
「ん〜…でもやっぱ言わない」
「何なのよニヤニヤして…気持ち悪いわね」






---fin---




あ と が き

最後久しぶりにお母様登場させてみました。オチ的に。
優くんのいじらしさとか健気さとか純粋で可愛いところが出ていればいいなあ。
匿名様、リクエストありがとうございました!


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