媚薬/学校/敬語 01.
僕は市立の高校に通う、ごくごく普通の高校二年生。ちなみに部活は『化学研究部』。根っからの理科大好き人間なんだ。
そんな僕には、皆には絶対言えない秘密がある。
――教師に恋してるだなんて、誰に言っても「そんな馬鹿げたことやめとけ」って言われるに決まってる。
だからこれは、自分だけの胸にしまっておくんだ。
リク作品 媚薬/学校/敬語
今日も僕はいつものように放課後、教室から一番離れた校舎にある化学室へいそいそと向かう。
此処に来ればあの人に会えるから、誰よりも早く行って、少しでも先生と二人だけの会話を楽しみたいが為に。
トントンとお決まりのノックをして、ゆっくり化学準備室のドアを引く。
先生は、洗い立てのように真っ白な白衣を着て、気難しそうに眼鏡をクイッと上げ机に向かって何かをやっている。
と、僕が入って来たのに気付いたのか先生は「いらっしゃい」と僕に視線をやり、柔らかい笑顔を向けてくれる。
僕は先生のこの顔が凄く好きなんだ。少しばかり先生に見惚れてしまっていた僕は、先生からの言葉にハッと我に帰った。
「あぁ、そうだ佐々木君」
「はっ、はい?」
「今日、他の部員は皆来れないようだよ」
「? そ、そうなんですか…」
そんな珍しい事もあるもんなんだな、とこの時はさほど深く考えもせずに頷いたが、よくよく考えたら、今日の部活は僕と先生だけ?いや、もしかしたら…
「じゃあ、今日は部活は無し、ですか…?」
「ん?いやいや、そんな事は。君は化学が好きだろう?…それとも、先生と二人で部活なんかやってられない、かな?」
「い、いえ!とんでもない!部活やりたいです、楽しいですから」
「っふ…それは良かった。でも今日は私達二人だけですからね、特別に珈琲でも煎れてあげましょうか」
今日は何て素晴らしい日なんだろう。先生と二人だけの放課後。こんなこじんまりとした部活でも、いつもは三年の部長とか一年の子達が何人か居て、それなりに賑わっているのに、今日は先生と僕の二人だけだなんて。これだけで十分嬉しいのに、しかも先生が珈琲を入れてくれるとか。なんか、どっかで見たドラマやアニメみたいだ。
僕は内心天にも昇る思いで、すっごくドキドキワクワクで、でもあまり表立ってはしゃいだりするのは柄じゃないし、必死に平常心を保てるように頑張りつつ、先生から促されるままに引かれた椅子に腰を下ろした。
コトコトとお湯が沸騰する時の独特な音がしたかと思えば、先生は手際良くあっという間に珈琲をビーカーに注いでいく。
「こんな器だけれど」と手渡されたビーカーからは珈琲のとても良い薫りが漂ってきて、いつも先生が飲んでいるものと同じものが飲めるんだなぁとしみじみ嬉しくなる。
「砂糖とミルクは?」
「あ、大丈夫です」
「へぇ、渋いねぇ」
たったこれだけの会話だけど、「渋いねぇ」って言うその先生の感心したような顔とか、先生は当たり前のように何も入れずにそのまま珈琲を口に運ぶのを見て、先生もブラックなんだ、だとか、僕の中での“先生との思い出”が少しずつ増えていくんだ。
――そんな時、急に身体が内側からじわじわと熱くなっていくような、変な感覚が僕を襲った。
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