sakura 01.




伝説の桜の木――それは所謂「都市伝説」と化した奇跡の話である。



sakura



「あの丘の桜の木の下で恋のお願いをすると、成就するらしいよ?」

「ふーん」


知ってる。知ってます。つか半年前から俺は毎日かかさずお願いしに行ってるっつーの。


「ふーんて!恭もなかなかにそういう話興味ナイ人だよね!」


そう言ってふにゃりと柔らかく笑うお前の笑顔に、いつだって俺は顔が火照るのを隠すのに必死なんだがな。


「ねーね、好きな人とかいないの?」


お前だよ、と言いたいのをぐっと堪える。なんだってお前はそうやって軽々しくそんな事を聞けるんだ!…や、ダチ同士なんだから普通の事なのか。


「や…いるっちゃあいる」

「え!まじまじ!誰?ねーだーれー?俺の知ってる人?ねーねー!」


ちょ、食い付き過ぎだろ。
向かい合う机に手をつき、ぐいっと顔を乗り出して目を輝かせながら俺の返答を待つその額に、ピンとデコピンを食らわす。


「った!ちょっとー痛い!」


ほんのり朱く跡のついた額を撫でながら、わざとらしく頬を膨らませ俺を睨む。ぷくーと膨れた頬が可愛い。爪楊枝か何かでつっついてやろうか。


「お前には教えてやんねー」

「な、なんだよもー!」





――今日も俺はいつものように、あの丘の桜の元へ向かう。何で飽きもせず毎日毎日ここに来れるんだろうとふと考えてみたが、答えは出なかった。

ただ一つ言えるのは、この叶わない想いを「伝説の桜さん」がいつか叶えてはくれないだろうかと願う事しか俺には出来ない、ということだ。


「おい桜さんよぉ、いつか気まぐれでもなんでもいいから、俺のバカな親友が俺の恋人になる日を寄越しやがれ…なんてな」


ちっ、と舌打ちをして俺の何十倍あるんだという程大きな桜の木の下にしゃがみ込む。
あーあ、一人で喋ってる可哀相な奴みたいだな、俺。なんて思ったら一気にテンション下がってきた。


『…その願い、案外叶ってたりして』


ハッとして後ろを振り向く。まさかあいつが隠れて俺の悲しい独り言を聞いてたんじゃないかと身を震わせた。が、いくら目を凝らして周りを見ても奴の姿はない。

あれ…空耳、か。遂に俺も自分の都合の良い空耳が聞こえるとこまでレベルアップしたみたいだ。
そうがくりと肩を落とし、よしもういい加減頭が沸いちまう前に帰ろうとした時だった。

ふと何かに呼ばれたように上を見上げると奴はそこに居た。


「あー…見付かっちゃった」


俺がつい先程まで気持ち悪い独り言をぶつくさ呟いていた、大きな桜の木の遥か上のぶっとい枝の上に、奴は居た。


「おまっ…」

「恭、毎日ここに来てたでしょ?」


よいしょ、といとも簡単にその枝から飛び降りた奴は、俺の目の前に降り立つとキラキラとした笑みを浮かべながらにじり寄って来る。


「俺も最近、毎日この木の上から、恭を眺めるのが日課になってたりして」



…悪戯な笑顔が憎たらしい。


でもまぁ、桜さんよぉ?お前の伝説もさながら嘘じゃなかったんだな。




-E N D-



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