いたいんですけれど 01.
さっきから視線が痛い。
俺は下を向いて雑誌を読んでいるというのにもかかわらず、ずーっと、じとーっと。見られているのが分かる。
なんなんだよコンチクショー。
いたいんですけれど
「…おい」
「はい…?」
「何だよ」
「いえ、何も…」
「じゃあ見んな」
雑誌から目を離してその突き刺さる視線の先の相手にそう告げ、また下に向き直る。
…が、やっぱり痛い。
痛い、痛いんだよ視線が!
「…おい」
「…………はい」
「だから何だっつってんだろ」
「あの…」
もじもじすんな。女々しいんだよお前は。もっとしゃきっとしろしゃきっと。
ちなみにこの視線突き刺し野郎は、俺の事が大好きらしい。何かっちゃあ俺に纏(まと)わり付いて来る。
俺は毎日毎日あいつが寄ってくる度に「邪魔だ」「寄ってくんな」と足蹴にしている、のにも関わらずめげる様子もなくこうやって俺を凝視出来るんだから凄ぇよ。全く。
いや、別にあいつの事が嫌いとかじゃねぇんだ。好きでもないけど。
「今週の日曜日…」
「忙しいな」
「じ、じゃ今日の放課」
「早く帰って夕方からのアニメ見ないとだなー」
「そう…ですか…」
しょぼんと肩を落とす姿が、雨の日に捨てられた段ボール箱に入っている子猫を彷彿(ほうふつ)とさせた。ふっ。
「ふっ」
「……え?」
あ、やべ声に出た。思わず顔を背けたがそれをあいつは見逃さなかったらしい。
じりじりと俺に近付いて来て、俺の両頬を持ったかと思うと無理矢理そちらに顔を向けさせられた。
「…っだよ」
「やっぱり、先輩の笑ってる顔、好きです。」
キラキラとした満遍ない笑顔で恥ずかしげもなくそう言ったヤツの姿に、思いがけずキュンとしてしまったなんて、本人には絶対言ってやるもんか。
-E N D-
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