妖しいアルバイト 番外編



*こちらは短編小説の「妖しいアルバイト」の番外編です。是非本編からどうぞ*



高良さんに「デートがしたい」と散々せがまれて、今日はとある有名遊園地に来ていたりする。
そういや思い返してみれば、大学の帰りに飯食いに行ったりすることはあれど、ちゃんと待ち合わせしてデート…ってのはしたことがない。

「たーかーしーさんっ」
「なっ…なんだよ」

ジェットコースターひとつ乗るのに待ち時間が100分とかいう前代未聞の混み具合だというのに、やたら上機嫌な高良さん。
そのままあまりにスマートな仕種で耳元に口を寄せられ、好きですよなんて囁かれて。

「だ〜!おま、こんな所で!」
「こんな所だから良いんじゃないですか」

ふふ、と心底嬉しそうに微笑まれたら、これ以上突っ込む気も失せるというもんだ。

「はぁ…まぁいいけどさ…つかこれあと何分くらい待つわけ?全然進まねぇ」
「私は貴志さんと一緒なら何時間待てって言われても全然平気ですけどね?」
「な"っ…」



妖しいアルバイト “初デート編”



「確かに今日は混んでてあまり乗り物に乗れそうもないですけど…」
「あ"ぁ」
「貴志さん、分かってるんですか?」
「あ"ぁ?」
「今日は初デートなんですよ!」

ベンチに座ってメロンソーダをズビズビ飲みながら貧乏揺すりをかます俺に、高良さんはそう言っておとなげなく頬を膨らませる。

「あ、あぁ…分かってるよ」
「〜もう!貴志さんのツンデレ!どうせアレなんでしょう?外だから…だからそうしてつれない態度をとってるだけなんでしょう?本当は手とか繋ぎたいと思っているけど…貴志さんのツンが邪魔をしてそれをさせないのでしょう?」
「あ〜……」

長い足を持て余しながら隣に座っている高良さんは、そうやってぶーぶー言いながら肩を落とす。
俺はストローをくわえたまま、後ろ頭をがしがしと掻いた。

や〜…高良さんの言ってることは分からんこともない。うん。確かに初デートだっつのに俺はさっきから不平不満しか口にしてないからな。それは悪いと思ってるよ。
でもなぁ…高良さん。あんた自分じゃ気付いてないんだろうが、相当目立ってんだよ。その格好良いツラを自覚しろ。
俺はよくも悪くも普通の大学生で、見た目も普通だ。人目を引くほどのもんは持っちゃいない。自分が一番よく分かってる。
一方この人…遊園地着いた時からそうなんだけど、すれ違った女の八割は高良さん目当てに振り返ってんだよ。分かってんのか。
ただでさえこんなデートスポットに男二人で目立つってのに、高良さんのせいで余計好奇の目にさらされてんだよ。分かってんのか。

「も〜……、貴志さん」

ぐるぐる一人で考えて眉間にシワを寄せてたら、ぱっと高良さんがこっちを向いた。

「なんだよ?」

ぱっと手を引かれて、お土産屋の建物と建物の間のちょっと人気の少ない所に連れ込まれる。

「なっ…何考えて……っんむ!」

もしやとは思ったけど案の定、壁に押し付けられてキスされた。一瞬ほだされかけて唇を開けた瞬間、容赦なく舌がぬるりと侵入してくる。

「ん…っ、」

何やってんだこんな所でもし誰かに見られたらどうすんだ責任とってくれんのか…って、とってくれそうだな高良さんなら……。

「んっ…はぁ、貴志さん…」

俺を見下ろす高良さんの顔があまりに色っぽくて、思わずギクリとした。



* * *



あのあと高良さんに軽くケリを入れて、俺達はまた乗り物の長蛇の列へと足を進めた。二人してあんな所でスイッチ入ったらまずいだろ。色々と。だからまだ物足りなそうにしてる高良さんをほっといて、俺はさっさと開けた道へ歩いていったのだ。

「貴志さんのムッツリ!」
「ちげーよ!」

なかなか動かない列の先をぼーっと眺めながら突っ込む。
高良さん、さぞかし不満そうな顔でもしてんだろうな〜と横目で隣を盗み見れば、何故かそこには至極満足そうな高良さんの笑顔があって。

「んな、」
「よかった。機嫌、直ったみたいで」

麗しい笑み、とはまさにこれを指すんじゃないだろうかという程綺麗な微笑みを真っ直ぐに向けられる。

「〜ッ」
「折角こんな所に来てるんですから、ね?貴志さんにも目一杯楽しんで欲しいです」

前にも後ろにも人が並んでるというのに、この人は恥ずかし気もなくそんな台詞を吐いてにっこりと笑みを深める。

「お、おう…」
「もう!このツンデレさんっ!」



* * *



時刻は進んでもう日も落ちた頃。
暗くなるにつれてテンションが上がったらしい高良さんに、この遊園地名物の巨大観覧車を指差しながらまるで子供みたいにキラキラした目を浴びせられ、仕方なく観覧車の列に並んでいたりする。

「もう夜だな〜…さすがに家族連れよりカップルが目立ってきた」
「そうですね、私達もその内の一組ですね」
「ちょ、そーいうことでかい声で喋んなって!」
「ふふ、そんな貴方の慌てっぷりが可愛くてつい」

そうこうしてるうちに順番がきて、ピンクの観覧車の開かれたドアの前でわざとらしくレディーファーストみたいに先陣を譲る仕草をする高良さんを小突きながら、漸くその小さな個室に腰をおろした。

「高良さんマジあ〜いうのさぁ」
「照れてしまいますか?」
「違っ…」

違くないくせに、と嬉しそうに言いながら立ち上がった高良さんは、当たり前のように俺の隣に座りだす。
ちょ、本っ当高良さん躊躇ないっつか…大の男二人で観覧車なんてそれだけでちょっとおかしいのに、こんな…肩並べて座るとかありえないだろ。離れてるとはいえ両隣の観覧車にも人は乗ってんだぞ?

「貴志さん…」
「な…んだよ?」

振り向いた瞬間、顎に手をかけられ唇を塞がれた。

「…んんっ…!んぅ」

気を緩めていた口元に捩込まれる肉厚のそれを自分のと絡め合わせる。くちゅくちゅといやらしい音がこの狭い空間に反響して、理性が崩れかける。
そんな折ゆっくり唇を離すと、切なげに息を吐いた高良さんがもじもじと口を開いた。

「勃っちゃいました……」
「ちょっ…」

俺の手をそっとそのうっすら盛り上がった所へ誘導され、カァッと熱が上がる。こっ、こんな所で…!

「おっ、おさめろよ…?」
「無理です…」
「え?」
「貴志さんとこの遊園地に来るの、夢だったんです…。そしてこの観覧車に一緒に乗れたら絶対…絶対……!…っあ、もうすぐ頂上ですよ、貴志さん」

言われてハッと窓の外に目を向ければ、いつの間にか俺達の乗った観覧車は一番高い場所に差し掛かろうとしていた。遠くの夜景があまりに綺麗で思わず息を飲む。

隣からまた俺の名を呼ぶ声が響き、ふっと高良さんを見つめる。




「貴志さん、私は貴方を…世界中の誰より愛しています」

丁度てっぺんに辿り着いた観覧車。今俺達が乗っているコレが、今この辺りで何よりも一番空に近い。周りの何物にも邪魔されない異空間の中で、星が燦然と輝く綺麗な空をバックにそんなドラマみたいな台詞を囁かれたら…そんなん…クるに決まってる。

そして高良さんは優しく微笑んで、軽く触れるだけの甘いキスをひとつくれた。

「おっ…俺も……」

なんですか、と落ち着いた声がおりてきて、交わっていた視線から高良さんの期待に満ちた笑みがこぼれ落ちる。

「すっ…好き、だ、よ」

尻窄まりにそう言えば、もう我慢出来ないとばかりにガバッと身体を抱き包まれた。
背中に回った手に、想いを確かめるようにぐっと力がこもる。俺もそれに応えるためそっと腰に手をやって、俺達は観覧車の中だということも忘れて啄むような甘い口づけを繰り返した。



* * *



「高良さんさぁ」
「はい?」
「結構キザだよな、しかも結構周りが見えてない」

帰り道、星空の下を二人並んでゆっくり歩きながらそうにししと笑えば、高良さんは満更でもなさそうな含み笑いでこちらに近寄り俺の髪をそっと梳く。

「…そうですね。私には貴志さんしか見えてないですから」

ふわりと微笑まれて、心臓をギュッと握られたかのように胸がきゅんと鳴った。そんな胸の高鳴りをごまかすようにハッと笑う。

「ほんっと、高良さん俺のこと大好きだよな?」
「勿論です」

――でも、貴方もそうでしょう?なんて続けられて、したり顔の高良さんとばちりと目が合った。

「なっ…」
「ふふ」

本っ当……この人には敵わない。

返事をする代わりに差し出された手をぶっきらぼうに取って、仕方ないから手を繋いでやる。

「大好きです」
「――…あぁ」

願わくば、この幸せがいつまでも続きますように。



---fin---



観覧車の中の情事はきっと両隣の人達にばっちり見られていたことでしょう。そしてそれも計算済み。
いやぁこの二人を久々に書けてとっても楽しかったです!
七緒様、リクエストありがとうございました!



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