番外篇 01.
「……志さん」
「…貴志さんっ」
「貴志さん!聞いてますか!」
俺はボーっとしていた。いや、正確に言えば考え事をしていたのだが。
怪しいアルバイト 番外篇
―――俺は先日、目の前に居る美青年、高良明人(たから あきひと)さんに『高額アルバイト』たるものに誘われ、金もさることながらそれ以上の物を手に入れてしまったのだ。(詳しくは本編を読んでねっ…って、何で俺こんな事言ってんだ?)
つい10分程前の事である。
俺が大学の中庭で一休みしていると、どこからともなく現れた高良さんが、当然の様に俺の隣に座って来た。
そして俺にこうやって話し掛けてきている訳だが、俺が何を考えていたのかというと、まぁ…。
「…ねぇ、高良さん?」
「はい、何でしょう?」
「高良さんは、何者なの?」
「私は、この大学のれっきとした生徒ですよ?」
「え…マジか!」
「はい。マジです」
「…てっきり怪しい組織かなんかの人かと」
「ははっ、何ですか、それ」
(…じゃあ何であんな高額バイトの斡旋なんかしてたんだ…?)
「…貴志さん?何故私があんな怪しいバイトをしていたのか、気になっているのでしょう?」
「バッ…違っ、そんなんじゃねーけど…いや…でも…何つぅか…いやその…」
「ふふ、貴志さんは嘘がつけない方ですね」
「ちょっ…!うっ、うるせーよ!違うって…」
慌てる俺を和やかな笑顔で見つめる高良さんのその視線にドキッ、とした。
高良さん、本当に綺麗な顔立ちだなぁ…。女なんて両手に余る程居そうな感じなのに、何でまた俺なんだ…?
「…かれこれ4年生を何回か経験してます…かね」
「…へっ!?じゃ、高良さんいくつなん…」
「いくつでしょうか…、もう、忘れました」
「いやいや、忘れるっておかしいから…」
「でも、そろそろ卒業しようかと思ってますよ。今年いっぱいかけて卒論を書き上げたいと思ってますので、安心して下さい」
(「安心して下さい、ニコッ」じゃねーよ。なんなんだそのニコッ、は。そんな笑顔でごまかされたりしないぞ、俺は。)
「気難しい顔、ですね…。ココ、皺が寄っていますよ?」
高良さんが俺の眉間に指をあてる。かっ、顔が近い…。俺は思わず視線を逸らす。
すると高良さんは更に顔を近付けたと思ったら、耳元に唇を寄せて
「あまりそんな顔をしていると、此処でキス、してしまいますよ…?」
先程よりワントーン低い声でそう言ってフッ、と耳に息を吹き掛けてきた。
「ひゃっ!…ちょ、やめろよ…」
顔が熱い。今俺の顔は絶対赤くなってる。ちょ、恥ずかしい。
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