02



「織姫にぃ様…!」
「ひ、彦星優…っ、」

ってアレ?なんかおかしくないかコレ。何故有無を言わさず俺が織姫の役なんだろう。
七夕ごっこをするにあたって、配役決めは非常に大事なことである。どっちが織姫役でどっちが彦星役をやるのか、しっかり話し合った上で決めるものだとばかり思っていたのだけど、まさかの配役決めイベント無しで急遽本番。先程の優の台詞からスタートしてしまった。

いやいやいいんだよ?優が彦星役をやりたいんだなって事はよーく分かっているつもりだ。
まぁ「七夕ごっこしよう」と言っておいて、「ぼくは織姫がやりたかったんだっ」なんて言われたらそれはそれでびっくりするし、それはそれでグッジョブなんだけど。

俺も優も一端(いっぱし)の男として、こういう場面で男の役をやりたいと思うのは至極当然のことだもんな。

優には、女性との恋愛をこんな若い内から断ち切らせてしまっているという兄としての気持ちの負い目もある。こんな時くらい、お兄ちゃんがどどーんと女役になってやらないとな!

「織姫にぃ様、今夜は一年に一度の大切な大切な日なのだーっ」
「そっ、そうですわね…!私達は、今日、この日を過ぎてしまえば、また一年間という長い期間、会えなくなるのですから…」

俺の部屋のベッドの上、小学校高学年の男子と社会人の男が、共にパジャマを着たまま、身振り手振りを使ってこんな台詞をまくし立てる。

俺は胡座をかいたまま、大きく手を挙げたり、はたまた両手を胸に当てて切なそうに優を見つめてみたり。さしずめ優を本当の彦星様のように思いながら、そして自分が本当に織姫になったように錯覚しながら、つらつらと彦星優様への想いを連ねる。

「優…じゃなくて彦星優様…!わたくしは、心の底から貴方をお慕いしております」
「織姫にぃ…!」
「貴方のことを思わぬ夜などありません。いつだって、私の心の中には一番に貴方がいるのです」

優の肩を抱き、ただでさえつぶらで可愛いその目を更に真ん丸くしながら俺を見つめ返してくる優にニコリと微笑みながら、チュと触れるだけの接吻を交わした。

「にぃ…」
「優、“織姫”が抜けてるぞ?」
「もおぉ!いーのっ、チューは織姫と彦星じゃなくって、僕とにぃのものなの!」

おぉっと可愛い言葉が出たところで、優もなんとなく七夕ごっこに飽きたのか、甘えるように俺に擦り寄ってきた。

「にぃ…チュー、もっとして?」

いつもならこういう時、不意打ちでキスしてくるのは優からの方が多いのだが、何やら今日の優は甘えんぼさんのようだ。
お兄ちゃん、そんな麗しい瞳とぷくっと膨れたピンク色の唇で迫られたら、とてもじゃないけど堪えられる気がしません!甘えんぼさん優最高に可愛いよ!

「ゆーう、ほら、こっち向いて?」

向かい合わせに座る優の顎をそっと持ち、くいっと上に向かせる。優は大人しく目を閉じて、俺からのそれを待つように唇を噤(つぐ)む。

「…っ…んむっ」
「んっ…っ…んぅ…っ」

そんな優が可愛くて可愛くて。
心からの愛を伝えたくて。
唇を寄せ、薄く開かれたその口内を優しく冒していく。

「んっ、ん…」

互いの高揚した吐息と水音に完全に臨戦体勢に入ってしまった俺が、あぁそろそろ本気でまずい押し倒してしまいたいと思い始めたそんな頃、急に視界がぐるりと半回転した。

「…ゆ、う?」

目の前には真っ白い天井と、可愛い顔で俺を見下ろす優。

「織姫…にぃ」

ここでまた七夕ごっこが出て来るのか!いやいや、なんだか男前な優、カッコイイ。

「はい…彦星、優」

精一杯の上目遣いで優を見上げたら、「可愛い」なんて言われてそのまま唇を奪われた。
可愛いなんて言葉は優の為に在るような言葉なのに、まさかそんな言葉を言われるなんて。思わず顔がドッと火照ったのが自分でも分かった。

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