番外篇 03.



「お邪魔しまーす…」

「はい、どうぞ。一人暮らしですのでどうかあまり気を遣わず」

「お、おぉ…」


分かってはいた事だが、部屋は広いし綺麗だし、そんでもって生活感が無い。
こんなマンションに一人暮らしって…よっぽど金持ちなんだろうな…すげー…。つか意味が分からん。

ソファーに座り周りをきょろきょろ伺っていると、高良さんがトレーに珈琲を乗せて持って来てくれた。


「…それで…貴志さん」

「……は、はい?」

「実は…1年程前に大学で貴志さんを見掛けた事があるのです」

「へっ…?!」


―――つまり、こういう事らしい。

1年前の学祭の時に、和装コンテストに無理矢理出されて着物を着ていた俺に一目惚れして、どうにかして俺と接点を持てないか考えていた結果、あの怪しいアルバイトの誘いに行き着いた、と。

で、撮影しているうちに我慢出来なくなって…ごにょごにょ。と。


「ほほほ本当にすみません…!私の事嫌いになりましたか?…なりますよね…本当…本当に何て謝ったら良いのか…申し訳ありません…っ…」

ひらすら頭を下げ続けている目の前の男に、怒る気など毛頭ない俺は、我慢出来ずに笑ってしまった。


「くっ…ふ…ははっ」

「…?…貴志、さん……?」


ゆっくり顔を上げた高良さんの目には大粒の涙が溜まって、ポロポロと頬を伝っていた。


「…え、ちょ、泣くなよ…」


高良さんをぎゅっと抱きしめてやる。すると彼は俺の背中に腕を回して、しがみつくように腕に力を込めて抱きしめ返された。


「…怒ら、ないのですか…?」

「ん…いや、何で1年も考えて答えがそれなんだよとか思ったけど…」

「はい…」

「まぁ、出会いはアレだし、初っ端からあんな感じではあったけど…」

「はい…」

「でも、俺が高良さんに惹かれたのも確かだし、今更嫌いになったりはしない」

「…!」

「…にしても、随分と変態だな?高良さん」

「えっ…いえ、そんな…」

「や、褒めてないから」

「はい…すみません…」

「俺はさ、高良さんがいつもあんな撮影会とかやってんのかな、って、その…疑ってたっつぅか…えっと…」

「心配、してくれていたのですか…?」

「え?…あぁ、まあ、な。そりゃあ嫌だろ」

「そうですよね…。本当に、心配かけてすみませんでした…!貴志さんが心配するような事は何もありませんので、安心して下さい…っ!」


そう言って更に腕に力が込められる。俺を必死で離さないように、どこにも行かせないようにとぎゅーっと抱きしめてくるのが本当に可愛い。

それに、俺がここ最近ずっと疑問に思っていた事も解決したしな。

ま、新たにまた疑問は増えたんだけど…

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