02



ベッドサイドに放り投げていた携帯がけたたましいバイブレーションをがなりたてて、反射的にビクッと身体が震え手が止まる。

電話か…電話…こんな時に…めんどくさいな……

劣情に苛まれている今の頭では、熱を吐き出すことが最優先だ。
電話なんか後でかけ直せばいいし…と思いながらふと携帯に目をやると、ディスプレイに『着信:高木』の文字が浮かんでギョッとした。

高木…高木か……しょ、しょうがないな……

ただでさえ心拍数が上がってるのに、更にドクドク心臓が煩く鳴る。

「もっ、しもし」
『あ!やっと出た!も〜何してたんだよ〜』

電話越しに聞こえる愛しい人の声にホッとすると同時に、さっきまでやっていた自分の行為への背徳的な気持ちが胸をうめつくす。

「…別に何も」
『よこたんツレない!俺再テスト超頑張ったのに〜!』

あぁ、うん、と素っ気ない返しをしながら、一向におさまる様子のない下半身の疼きに焦る。うあぁ、やばい。高木の声聴いてたらそれだけで余計なんかヘンな気分に……

「…っ」
『…?横田?』

そろりと手淫を再開する。
頭では駄目だと分かっているのに、なんか止まんない。

「なっ、に…?」
『ん?いいや〜ただ横田の声聞きたかったからさ、最近すれ違い多かったし』
「…ん…っ」

露の滴るそれを握りこみ、ゆっくり上下させる。おかずにしてる相手の顔を思い浮かべて、耳に流れてくる声をじっくり聴きながら。





『な、なぁ横田…』

さっきまでべらべらと喋っていた高木が、急にトーンを落とした声色になる。

「ん…?」
『横田さぁ……今、何してんの…?』

電話の向こうでごくりと喉の鳴る音が聞こえた気がした。

「…っと…っ、…な、なにも」

やばい。ばれたかも知れない。
オナニーしながら電話するなんて…引くよな。……しかもまだ手、とまんないし。

右手を動かしつつ平静を装って口に乗せた言葉は、高木の『本当に?』という訝しげな返答にあっさりと飲み込まれてしまう。

「う、うん…。なんで」
『え〜だってなんか横田、エロい声してっからさ』
「……っ、」
『もしかして……一人でしてたり…しないよな?』
「…………」

どうしよう。ばれた。
途端に頭の中が真っ白になる。

『横田?まじで?』
「…………」

引かれた。
気持ち悪いとか思われたかも。

『……なぁ横田』
「…………」

『…俺も、たってきちゃった』
「な"っ……」

はは、と高木の朗らかな照れ笑いが聞こえる。
俺が一人でシてたかもってだけで高木も勃つとか……そんな。やばい、なんか余計に興奮してきた。

『ね、横田もたってんの?』
「…う、……ん…」

おずおずと認めて、手の中にある性器の先端をくりくりと指で弄る。割れ目から新しい先走りが、ぷっくりと滲み出てきていた。






『あ〜…も、本当やば…っ…』
「…っ、」
『なぁ横田、もっと声…聴かせて…?』
「……っ……ん…ぅ」
『やばいエロい…横田すき…好き…』

好きという単語に下肢がピクリと反応した。
高木の欲情のこもる甘い声が、じんわりと耳の中から身体全体に染みていく。

「たっ…かぎも……してる…?」
『してるよ……ほら』

電話の向こうでガサゴソときこえたかと思えば、次の瞬間ぐちゅりと生々しい水音が聞こえてきてカッと身体が熱くなる。
わ、本当に、してるんだ。やばい、興奮する。

「ん……ほんとだ…」
『な…横田のもきかせてよ…』

艶のあるエロい声で言われ、決して命令されているわけではないのに、逆らえないような気になる。

「ま、待って」

そっと携帯を耳から離して、股間へともっていく。
それからわざと音が立つように、竿を手で扱いてみせた。

「……はい」
『横田…っ…エロい…はぁ…やべ手ぇとまんね…っ』

自分に対してこんなに欲情を露わにする高木に酷く興奮した。高木の声に合わせるように自らも手を動かして、小さく息を漏らす。

『横田…もっと自分の触って…声だして…?ききたい…横田…っ』
「…ぅ…ん……っ…ん…っ」

切羽詰まっていく高木の声に、我を忘れてコシコシと性器を擦る。気持ち良くて…もう夢中で…さっきまでは我慢できていた声も、堰を切ったようにどんどん溢れ出てくる。

「ふっ……ん……っ…はっ…」
『横田ぁ…やばいもう俺出そ…はっ…は…』
「んっ…おれ…も…っ」
『横田もイキそ…?一緒イこ……』

ん、と掠れる声で返事をして、左手の律動を速めた。



* * *



「……なんで」
「横田とあんなことしちゃってもう俺会いたくて会いたくて我慢できなかった!」

電話を切って数十分後。
いつの間にか自分の部屋のドアの前に佇んでいた人物に、俺は呆気にとられていた。

「………」
「あ!ちゃんとピンポン押したぜ?お前の部屋電気点いてんのに出てくんないからどーしよって思ったけどドア開いてたから!俺急ぎすぎて携帯持ってくんの忘れちゃってさ〜」

言いながら俺の肩を押すようにして部屋にずんずん入ってくる恋人をまじまじと見つめる。

高木がわざわざ会いに来てくれて飛び上がりそうなくらい嬉しいのに、驚きと混乱が先立って上手く表現できない。もたつきながら高木にされるがまま後ろに下がるだけで精一杯だ。

「つか鍵とかちゃんと閉めろよ?最近物騒なんだから…って勝手に入ってきた俺が言うのもなんだけどま、じ、でっ」

最後の言葉を区切るように言いながら、高木はにっこり笑って俺をぎゅっと抱きしめる。
目の前にある本物の温もりと、鼻をくすぐる高木の匂いに包まれて…胸にとくんとくんと心地好い想いが溢れ出していっぱいになった。

「高木……」
「ん〜?」

この気持ちが少しでも伝わるようにと、背中に回した腕に力を込める。

「…ぁ…会い、たかった…」
「ん、俺も」

少し身体を離して見つめ合う。
引き寄せられるように口付けをして、何度もゆっくりとその行為を味わう。

「高木…………っ……き」
「ん〜…?なぁに、横田」

コツン、と額を合わせられて優しい声が降ってくる。

「〜…っ、…す、好き」
「うん、俺も横田ちょー好き。大好き。…呼ばれてもないのに会いに行っちゃうくらい、ほんと好き」

やっとの思いで口にした言葉の十倍くらいの言葉を返されて、まるで慈しむみたいな表情を浮かべながら俺を見下ろしてくる高木に、思わず見惚れた。

「…よこたん、可愛い」
「〜…っ、かわいくない」

いやいや可愛い可愛い〜とふざけるようにしてまた強く抱きしめられる。

可愛いなんて言われるのは心外だけど、高木にだったら……まぁいいや。



「あ〜でもさっきはマジでヤバかった!まさか横田とあんな電話エッむぐんんんん?!」

恥ずかしげもなく、というかむしろ誇らしそうにさっきの出来事を蒸し返そうとするその口を慌てて塞いだ。

「…っぷはぁ、ヒド!」
「……」
「ってかよこたん顔真っ赤!」
「……」
「ってぇ!ったく、しょーがねーなー…」

気恥ずかしさをごまかすように、軽く高木の横っ腹にパンチを入れる。
わざとらしく痛がる素振りをする高木を唇を噛み締めながら見ていたら、ちら、と目が合って、その瞬間高木の瞳がゆっくりと細まる。

「……俺、ちょー嬉しかったの。分かる?」

先程とは打って変わるような真剣な顔で言われ、思わずこくんと頷く。
俺にとってはただただ心底恥ずかしい出来事だけど、逆の立場で考えたらそう思う理由も分かる。というか、逆に高木にあんなことされたら俺だって絶対嬉しい。

「っあ〜…もうよこたん大好き!ちょー好き!っも〜…!」

地団駄を踏む勢いな高木にぎゅっと抱き着いて、薄い胸板にすりすりと顔を擦りつける。

「……おれも、…すき」
「っ!横田っ…!」


――この上なくバカップルみたいなことをしてるとも気付かずに、俺達はこんな風に夜が更けるまで、いつまでも愛を語り合っていた。



---fin---




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