受溺愛不良攻め×ツンデレ受け


その日オレは恋に落ちた。

悪友と共にガムをくちゃくちゃ噛みながら歩いていたその先にいたのは、まるでそのまま放っておいたら消えてしまうんじゃないかってくらい儚い雰囲気の小柄な少年。

『bonheur』と書かれた淡い色の花柄のエプロンを掛け、店先に並べてある花達を慈しむように目を細めながら眺めるその姿に、一瞬で胸にドガンと何かが刺さった気がした。
性別だとか、そんなのは些細な問題に過ぎねぇ。


「す、すんません」
「?はい」
「あっ、あ〜…と!これ!いくらすか!」

咄嗟に声を掛けたものの後に続く言葉なんて考えてもおらず、たまたま目に入ったピンクのチューリップを指差しケツポケから財布を取り出す。

「…贈り物ですか?うちの花は大事にしてくださる方にしかお売りしたくないのですが」
「は?」

可憐なナリから飛び出た客相手とは思えない冷たい言葉に固まっていると、少年はわかりやすくため息をつきヤンキー二人を目の前に物怖じひとつせず、淡々とこう言い放つ。

「…冷やかしなら帰っていただけますか。それと、」

くれぐれも路上喫煙はやめて下さい。そう言った少年の胸には『花園』という名札が付けてあった。
花園クンか……やーべぇ。

一人ニヤける俺をよそに、連れが「あぁん?」とやり慣れた喧嘩腰の口調で花園クンに近付いていく。

「っいテメ!」

ヤツの腕が花園クンに伸びる寸前、俺は光の速さでダチをぶん殴っていた。



受溺愛不良攻め×ツンデレ受け



「こーんちわ!」
「…また貴方ですか。お帰り下さい」

あれから俺は、骨身を惜しむことなく花屋『bonheur』に通いつめていた。
もう一ヶ月くらいにはなるんだろうか。まぁ、出席日数よりココに来てる日数のが多いことだけは確かだ。

「うわヒデェ。ねーねー花園クン」

名前を呼んだところで無視。俺のことは虫ケラか何かだとでも思ってんのか、花園クンはそのまま静かにジョウロで花に水をやっている。

「すいまっせん!ね!花束が欲しーんで、包んでもらえない?」
「…花束?ですか」

のっそりと振り向いた花園クンの表情はひどく疑わしげなもので、俺が「予算は5000円。中身は……花園クンが好きなヤツで」と言った時には、嫌悪感たっぷりの顔で「…お待ち下さい」とジョウロを隅に置いた。



「っしサンキュー。じゃコレはキミにあげる!はい、コレもちゃんと付けたから見てね」
「……は…?」

出来上がった綺麗な花束を、そのままそっくりメッセージカード付きで作った本人に渡す。

どーせ突き返されるだろうと分かっているので、花園クンの二の次の言葉が出ないうちにとっとと退散した。


――『戒条高校2年F組 東堂諒』

あのメッセージカードは見たか分かんねぇけど、何よりも花が好きな花園クンがわざわざ丹精込めて作った花束を無下にはしねーだろ。

そう自分に言い聞かせて、ワックスまみれの髪の毛をかきながら家路をスキップでもしそうな勢いで歩いた。



***



どうやら花束作戦は功を奏したようで、花園クンはあれから俺が店に現れても露骨に嫌な顔をしなくなった。

「なーこの花はなんてーの?」
「…ハナミズキって札に書いてあるでしょう」

それどころか、ちゃんと会話が出来る。すげー進歩じゃん。

「ふーん。じゃあ今日はコレにしよっかな」
「…ありがとうございます」

慣れた手つきで花を包む花園クンの手元をじっと見やる。ほっせー腕だな……。それに、指先が魔法みたいに動いて綺麗に花をまとめる様は見ていて飽きない。好きなコだからなのかもしんねーけど。

「…お待たせしました、どうぞ」
「んあぁ!ドーモ!」
「ではお帰り下さい」
「は?」

俺があまりに見つめすぎていたからか、ひょんなことから機嫌を損ねた子供のような顔で花園クンは三十度くらいのお辞儀をしてきた。買うモン買ったんだから早く出ていけということらしい。

いつものことながら、ここまでハッキリと言われると逆にスカッとすんだよな。だから俺は結構そういうとこも気に入っている。っは、ちょっとキモいな、俺。

「…不良が店に居たんじゃあ他のお客様が入りづらいでしょう」

ハイハイわかりましたよーと踵を返そうとした俺の背に、ぼそりとこんな言葉が突き刺さった。

「な、その言葉「お帰り下さい!」ちょっ…!」

振り向こうとする俺の背中を花園クンの細い腕が力一杯押してくる。本来こんな力じゃビクともしないが、突然のデレをかまされて不意打ちくらった気分の俺はいとも簡単に足元を崩し、されるがままに店先へと追いやられた。

「ねぇ花園ク「ありがとうございました!!」…おいおい……」

改めてさっきの言葉の真意を聞こうと振り返れば、捨て台詞のように声を張り上げそう言った花園クンは、俺の顔を見ることもなくぷいっと後ろを向いてスタスタ店内へと姿を消した。

「んだよ…クソ可愛いな」

帰りにマツキヨでカラー剤を買って、その翌日さっそく黒ベースにド金髪のメッシュからダークブラウンにして制服もカッチリ着込んで店を覗くと、同一人物だと気付かなかったのか花園クンは初めて俺に営業スマイルを見せてくれた。

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