いつもタチの人が好きな人を襲おうとして『なに勘違いしてんの?』って受けさせられる話


大学に入って初めての新歓コンパで出会ったスグル君は、パーマがかったふわふわの猫っ毛(本人は天パなのだと歎いていた)と、ネコみたいにくりくりした大きな瞳が印象的なとっても愛らしい男の子で、性的マイノリティである俺のドストライクな容姿と人間性を兼ね備えたスーパーレア男子だった。

ただ、

「あ、あの子スカートめくれちゃってるね、パンツまる見えだ」
「……。そうな…」

スグル君はドノーマルらしい。
いや、当然だけどさ。

女の子のパンツをはははと可愛い顔して笑いながら眺めている想い人を横目で見つつ、心底興味の無い女子のパンツを体裁的に見てはゲンナリと息を吐いた。



いつもタチの人が好きな人を襲おうとして『なに勘違いしてんの?』って受けさせられる話



スグル君は一見人畜無害な優しいタイプに見えるが、その実かなりおおざっぱで好き嫌いがハッキリしてて結構ズケズケ物を言うタイプだ。
ま、そんなギャップにも激しく惹かれてる俺なわけだけどね。

「ね〜たつ!たーつ!」

昼時のテラスで物思いに耽る俺の正面で、ね〜聞いてんの?!と不服そうに頬を膨らませながらテーブルをドンと叩くスグル君の声が響く。

「ん〜悪い、考え事してた」
「たつって僕と一緒いる時よくそのカオするよね、んまぁいいけど。今日の新歓コンパたつも行くでしょ?」

え、まじ?俺そんな顔に出てた?
恐らく十中八九いやらしい顔になってるであろう自分に喝を入れ気を引き締めながら、イクよと返事をする。

「ん!たつが行くなら僕も行こーっと!」

ナチュラルにどツボをつく台詞を吐くスグル君に、気持ちがバレないようにそうかと笑ってみせ、すっかり冷えてしまったAランチに漸く手をつけた。



***



「うっはぁ〜…たつぅ〜ねぇた〜つ〜!」

駅前のよくある居酒屋。
座敷席で壁によっ掛かりながら安酒を嗜む俺の肩に、かなり酔っ払ったご様子のスグル君がこてんと頭を乗せてきた。瞬間俺の背筋をピンと伸び、因みに股間もピンと伸びる。

「な…っ、ちょ、スグル君…!」
「ん〜…へへぇ〜たつももっと飲んでぇ〜!ノリ悪いよぉ〜」

やけに絡み酒なスグル君に勧められるがまま浴びるように度数の高い酒を摂取し、たつたつぅと懐いてくるスグル君の声がねだるような甘い響きに変わったことにも気付かず、いつの間にか俺は完全に酔っ払っていた。




「……って、あれ…?」

意識が戻った時、何故か俺は自分の部屋に居た。

どうやってお開きになったのかも、どうやって帰ったのかも、……どうして俺のベッドでスグル君が寝ているのかも全く覚えていない。

「す、スグル君……?」

薄い呼吸を繰り返すスグル君におそるおそる小声で名前を呼んでみるが、返答はない。

これはまずい。
酒の力を借りて本能のままお持ち帰りして据え膳状態なのは実に有り難いお話だが、本当に襲っても大丈夫だろうか?

いやいやというかむしろこのまま同じベッドで眠ることなんて不可能だ。勃起しすぎてとんでもないことになる。

「……………。」

ちらりと窓に目を向けてみると、外はまだ暗かった。壁の時計は午前4時過ぎを指している。静まり返ったこの空間に、スグル君の規則正しい寝息がひとつ。

「…………スグル、君…」

言いながら、小柄な肢体に跨がるようにしてベッドへとあがる。
俺の下ですやすやと可愛い寝顔を崩さないスグル君の股間に丁度当たるように、自分の下半身を持ってきてみた。

「…っ、」

あ、スグル君でも勃つんだ…。
朝勃ちに近いであろうただの生理現象を目の当たりにして、ジワジワと下半身に熱が溜まっていく。

サルエルパンツの不自然に膨らんでいるそこと、自分のガッチガチに突き出たスエットのそこを擦り合わせるようにして腰を動かす。ぅわ、やばい。マジで興奮してきた。

「っ………っ、」

荒くなる息を堪えながら暫く衣服越しのそれを満喫し、ゴクリと唾を飲む。

脱がしちゃって、いいかな…?

まだ酒の抜けきらない脳みそは、この状況をいとも簡単に把握して自分の良いように解釈していた。

「…っし、…っ!!!?」

ゆっくりとスグル君のベルトに手をかけた瞬間、俺の手首を掴む細い腕と、ハッとして目をやった先にニッコリ微笑むスグル君が見えて……俺は完全に固まった。

「……たーつ?」

子供がおいたをしたのを優しく咎めるような口調で名前を呼ばれる。が、正直頭がこんがらがって返答もせずに目を逸らすことしか出来ない。

「ちょっと……たつ?」
「ご……ごめ……」

静かに、だがさっきよりも不満そうな色を含む声をあげられ、反射的に謝罪しながらズリズリとその場から降りる。

「友達襲おうとしといてそれだけ?」

すっかり萎びれた股間。
今だ仰向けのまま、俺を訝しい目で見上げるスグル君を直視できずに、へなへなと視線を泳がせる。
身体中の毛穴という毛穴から冷や汗がドバっと湧き出てくるのが分かる。

スグル君はああ見えてかなり毒舌だし、ズバッと物を言う人間だ。
この流れだと土下座して謝った後スグル君の気の済むまで殴る蹴るの暴行を受けて然るべき賠償金的なものを支払いそして証拠の写メかなんかを大学にバラまかれて人生シャットダウン…!

「ご、ごめんスグル君…!違っ…違わないけど、えっと…あの…俺…ちょっと酔っ払ってて……えっと……スグル君があまりに可愛い顔して寝てるから…ッ!」
「……ふ〜ん…」

やばい間違った!!
この期に及んでなーに気持ち悪い良い訳並べてんの俺!!

射貫くようなスグル君の細められた眼差しが突き刺さる。
ふーんと言ったきり罵倒すら飛んでこない状況に耐え切れなくなり、俺は勢い良くベッドに頭をめり込ませた。

「ちょっとたつ…なに土下座してんの…?」
「ごめん!す、すみませんでした…!もう絶交どころじゃないだろうけど…ほんとごめん……何でもする…何でもするから……」

シーツに顔を埋めたまま、くぐもった声で哀願する。
すると、がさがさとおそらくスグル君が起き上がって座った音がした後すぐ、はぁ…と盛大なため息が聞こえて、目をギュッとつむりながらこの世の終わりを感じていた。ら。

「っ…!?」

突然頭をわしづかみにされ、無理矢理頭を上げさせられた。

驚いて声も出ない俺にスグル君はニッコリ笑って、

「…なに勘違いしてんの?」

僕、謝れとか土下座しろなんて頼んでないし。嫌なんて言った覚えもないんだけど?――そう続けられ、質問する余地もないくらいすぐに…唇を、ふさがれた。

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