腹黒優等生と不良


親の陰謀で私立五条学園に入らされ一ヶ月。国内でも有数の進学校らしく授業はサッパリわかんねーし、全寮制というプライバシーもなんもねぇ日々にも嫌気しかささねぇし、なんといっても男子校という最悪なおまけまでついたこの高校で、オレは毎日苛ついていた。



腹黒優等生と不良



「なんであんなヤンキーがうちの学園に…」「不良だぞ、目を合わせるな」「そもそも彼は授業についていけてないだろう」「まぁ僕達とは人種が違うのさ」

席に座ってるだけで周りからヒソヒソと聞こえてくるウザったい言葉にも慣れたけど、あいつらまとめてぶん殴りたいという欲求にはそろそろ耐え切れなくなりそうだ。てめぇら何かあんなら面と向かって言ってこいや!

「……チッ」

舌打ちと共に声のする方を睨むと、どこからともなくヒッ…と脅えるような音がして、それっきり静かになる教室。ほんと腹立つな。



***



「五条卓己君、だよね?ちょっといいかな」
「あ"ぁ?」

とある昼休み。
貧乏揺すりをしながらガムを噛んでいたオレの前に、ファイルを両手で持ちながら柔らかい笑みを浮かべる眼鏡が現れた。

「そんなに怖い顔しないで。僕は生徒会書記の草野利人っていうんだ。同じ一年だよ」

オレの睨みにも臆することなく、よろしくねと笑顔を向けてくるこいつをジロリと上から下まで眺める。

「あはは、僕、背は低いんだ…。五条君は高いよね。羨ましい」
「……何の用だよ」

要領の得ない会話に苛立って眉間のシワを濃くしながら腕を組む。

「ぁあごめん。いや、理事長から話は聞いてるよ、五条君……」



***



草野曰く、オレの諸々な事情は生徒会役員などの権力を持つ一部の生徒にはクソ親父から聞かされているようで、オレをどうにか留年させないようにという勝手な願いを引き受けたのがコイツというわけらしい。

「五条君、お昼、一緒に食べよう?」
「ぅわテメッ…!屋上はオレの場所だっつったろ…」
「いいじゃないか。それに屋上はみんなのものだ」

最初こそ胡散臭くてやってられねぇと思っていたが、毎日毎日律儀にオレの教室までやってきては話し掛けてくる草野を突き放すのに罪悪感を感じ始めるまで、思えばそう時間もかからなかった。

「今日は鰻重だよ、勿論キミの分も用意したから、一緒に食べよう?」
「チッ…しょうがねぇな…食ってやるよ」

今では、オレがこの学校で唯一まともに会話できる貴重な人間だ。
ま、上手いもんくれるしな。傍に置いておいて損はねぇ。

「あ!煙草は駄目だよ、見付かったら退学に…は…ならないかも知れないけど…」
「なんねーんだよ、だからいんだよ」

脂の乗った特上鰻重に舌鼓を打ち腹も満たされたところで、胸ポケから何の気無しに取り出したタバコに草野は苦渋の表情を見せる。

「それ、美味しいの?」
「あぁ"?お前みたいなお坊ちゃんにはわかんねーだろーよ」

ふーん…と興味深そうに俺の手元をじっと見遣る草野の髪の毛が、急に吹き抜けてきた突風によってサラサラと流れた。



***



「は…はぁ?お前なんで俺の部屋…は?」
「だから…今日から僕がルームメイトになるんだよ。理事長の息子だからって何から何まで優遇され過ぎるのは不公平だろう?」

ある日突然、学生寮の俺の部屋に大荷物を掲げた草野がやって来た。
サラっと理由を告げてくるコイツに苛ついて開きかけのドアを閉めようとしたら、ガッ!と隙間に靴を挟んでそれを阻止され、草野らしくない食い下がりっぷりに思わずドアノブから手を離した瞬間、あっという間に草野の侵入を許してしまった。

「お前……遠慮ってもんを知らねーのか?あ"ぁ?」
「ふふ、五条君から遠慮って単語が出るなんて思わなかったな。…ここまで来るのに苦労したんだから…嫌とは言わせないよ………それに、理事長にも勿論許可を貰ってあるしね」

『寮移動許可証』とかいう忌ま忌ましい紙をヒラヒラ見せられる。なんだコイツ、マジでここに住む気かよ…

心底げんなりしていると、草野は二段ベッドの俺が倉庫代わりにしていた下の段を目を細めながら見つめていた。

服やら雑誌やらで散漫しているそこを片付けなきゃなんねーのも、これからそこで見知った奴とはいえ他人が住まうことになんのも、俺が知らない間にそんなことになったってことも、全部がいけ好かねぇ。

「はぁ……俺、ココ片付けたくねぇんだけど」

ベッドを親指でさしながら顎を上げて草野にガンを飛ばす。
いつものことながら俺に対して怖がったり脅えたりすることのない草野は、ゆっくりと笑顔で頷いた。

「そう言うと思った。いいよ、片付けなくたって」

ひどく上機嫌なその様子に片眉がピクリと反応する。なんだ…?コイツ…何考えてやがる…

「キミがココを片付けたくないのならしょうがない。僕も上の段で一緒に寝よう」
「…ッ、はあああぁぁ?!」

異論は認めないよ。そう言った草野はニヤリと口元を三日月型に上げ、暴言を吐く俺をものともせず、鼻唄混じりに荷解きを始めてしまった。

「おっ前!!!意味わかんねーよ!!ちょ、聞けっつーの!!!」
「もう……あんまり怒鳴ると迷惑でしょう?」

草野の背中に怒号をぶつけ、シャツの衿元を引っ張って乱暴に尻餅をつかせた。
このまま思いっ切り殴ってやりてーが、こいつの表情が一変し、言葉の柔らかさとは裏腹に鋭い目付きになったのを見て一瞬戸惑う。

「……チッ、なんだよ」
「あのさあ…あんまり僕を怒らせないでよねぇ…?これじゃ何の為に外ヅラ良くしてキミに近付いたのか分かんねぇだろうが……もっともっと信用させて仲を深めてからって思ってたけど仕方ない……」
「は?何?お前何言っ……?!!」

何かに取り憑かれたようにブツブツ言いながらどす暗いオーラを放つ草野にゾワッと嫌な身震いがし、じりじり後退る。

「逃げるなよ…五条君……」

普段より恐ろしく低い掠れ声をあげながら四つん這いの状態で近寄られ、逃げるように後ろに下がっているうちに背中にトンと壁が当たった。チッ。

「五条君…本当に目付き悪いなぁ……ふふ、ちょっといいかな…ッ!!」

とうとう追い詰めたと言わんばかりに薄気味悪い笑みを浮かべながら振り上げられた腕が、ガシリと俺の両手首を掴む。

「チッ…何すんだテメッ…!クソッ!離せっ…!なんだこの力…ッ」

いくら手を捻ってみてもビクともしやがらねぇ。そうこうしている内に草野との距離が段々と0になっていく。頭突きでもされんのかと頭に目一杯力を入れ迎え撃つ準備をしていたら、

「…ッ!?!?」

唇に当たる柔らかい感触。
目を開くと草野は瞼を閉じたまま、俺の口を開かせようと唇で挟み込むように揉んだり唇を舌で舐めたりと、嫌がらせ以外の何物でもない行為に及んでいた。

「ん"〜…!ん"!!」

暫く唇を塞がれたまま、自然に伸びてきた草野の手が俺の股間に触れ優しく撫でてくる。
こんな状況だというのに、身近に女がいない環境が長かったせいか俺の愚息は反応してしまっている。それを悟られまいと身体を強引に捩らせて暴れていると、漸く観念したように唇が離された。

「んはっ…はぁ……五条君、好きだよ。僕と付き合って欲しい…」
「…は……?」

この流れでハイお付き合いしますと言われるとでも思っているのか、上気しきった顔を向ける草野は恍惚とそう告げてくる。

「今はわからないよね…うん。それでいいよ。でもそのうち、絶対僕ナシじゃいられなくなるから……そうしたらまた、きちんと告白するよ」

スタートからゴールまで終始意味の分からない発言に呆けていると、目の前の優等生ヅラした悪魔はニッコリ笑みを深くして二段ベッドの梯に足をかけだした。

「ほら…一緒に寝ようよ?」

頭に過ぎったのは少しの興味と多分の危険信号。

ただ、この学園に俺の味方は誰ひとりとして居ないのだから、助けを呼んだとしてもどうにも意味が無いということは、覆ることのない事実だった。

「…変な事したらぶっ飛ばすぞ」

梯を上がる足が震えているのは、武者震いってことにしておくことにする。



--end------------





【あとがき】

『腹黒優等生と不良』
腹黒というよりヤンデレ…?鬼畜…?ちょっと恐い系優等生になってしまったかも。
絶対これから襲われるよね!完全にフラグ立ったよね!ごちそうさまです(^q^)
お題提供ありがとうございました!

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