愛され馬鹿な人気者×隠れ美人ヲタク


「わっ…!ちょっ……」
「わっ、わりぃ…なんか……」

俺はその時気付いた。
渚に対して抱いていた感情に――



愛され馬鹿な人気者×隠れ美人ヲタク



「工藤…渚…、です…。よ、宜しくお願いします…」

新学期に入って少しした頃、渚がうちのクラスに転入してきた。

ぼそぼそと俯きがちに喋る内気そうな雰囲気と、長めの前髪に野暮ったい眼鏡。

「………。」

その地味な印象はクラスのみんなの興味を萎ませるのに充分だったようで、大方の予想通り彼は転入早々一人で昼メシを食っていた。

「なーぎさクン!俺、佐藤春馬!よろしくなっ」

最初は、クラスに馴染めていない彼のことがただ気になっただけだった。
学校もクラスの奴らも好きだった俺は、どーにかしてこいつをみんなの輪の中に入れてやりたいと思って声をかけたんだ。

幸い友達は多かったから、その中に渚を入れてやることは思いのほかカンタンで、渚がもじもじしつつも周りに溶け込もうとしているのがわかったのか、みんなも渚への本来あった興味が戻ってきたようだった。



「ほんと……佐藤くんのおかげだよ。ありがとう」
「やや、みんなと仲良くなれたのは渚のチカラだろ〜!」

ニ、と歯を見せて笑う。
眼鏡の奥からのぞく渚の瞳が、うっすらと細まるのが見えた。

「あ!あと春馬!な!」
「は、はるま…」
「そーっ!も〜いい加減下の名前で呼んでくれよなぁ〜?」

わ、わかった…!と拳を握る渚がなんだか可愛くて、思わず噴き出す。友達の名前呼ぶってだけでそこまであからさまに緊張するとか…面白いやつだな!

「な、何笑ってるの…?」
「んん〜?なーんでもっ」



そして渚が転入してから半年ほど経って、いつのまにか俺たちは1番の友達になっていた。



***



「渚〜」

いっしょ帰ろ!と渚の肩を抱く。
一瞬びくりと身体を震わせた渚は、おろおろしながらも急いで教科書類をカバンに仕舞い始めた。

「うっひゃ〜!それ全部持って帰んの?」
「え…?あ、明日からテストじゃないか…」

テストがあってもなくても教科書は置きっぱが普通だと思っていた俺は、ポリポリと頭をかきながら重そうなカバンを肩にかける渚をじっと見つめていた。



「新しいクラス、ど?」
「う〜ん、D組の人も何人かいるし、多分だいじょぶ」

そっか、と両手を組んで頭の後ろを支える。
二年生になって、渚とはクラスが離れてしまった。
んもおぉ正直すんげー寂しい!クラスのやつもみんな好きだけど、誰よりも1番仲良くしたい渚がいないなんて…心にぽっかり穴が空いたみてーだ。

「春馬は…?どう?」
「チョ〜寂しい!」

駄々をこねるみたいに叫べば、うっすら微笑んだ渚は小さく「僕もだよ」と零す。

「ん"〜っ!これからもそっちのクラス遊び行くからな!絶対絶対!」
「うん…!僕も、B組に遊びに行くよ」

えへへ、とはにかむようにお互い笑い合う。

――渚、笑うと超可愛いな。
そんなことを考えながら。



***



「渚ってそんな目ぇわりぃの?」
「う、うん…0.01とかそんくらい」

まだ渚が転入してきて間もなく。
俺んちでテスト勉強をしていた時のこと。

目の前で静かにシャーペンを動かす渚がふと気になってなんとなく見つめ込んでいたら、渚のかけている厚いメガネがどーしても気になりだして、質問せずにはいられなくなった。

「なんだそれ!ちょ、メガネ貸して!」

持っていた消しゴムを放って、早く早くと言わんばかりに手をだす。
視力0.01の世界なんて意味分かんねぇよ超気になる!

好奇心丸出しの顔で渚を見る。
渚は気が進まないとばかりに目を泳がせていたが、だめか…?としょぼくれた俺の反応にブンブンとかぶりを振ってメガネに手をかけた。
戸惑いがちに渡された、厚いレンズのせいでやけに重いメガネをゆっくりかけてみる。

「…っなんっにも見えねぇ!!」
「そ、そりゃそうだよ……」

何故か申し訳なさそうな渚とは反対に、ぎゃはははと意味もなく込み上げてきた笑いによって瞳を濡らす俺。

メガネを取って目元を適当に拭ったあと、それを持ち主に返そうとばっとクリアな視界に渚を入れた。ら――

「っえ!?な、渚…」

メガネ無しの友人の顔があまりにも綺麗で、一瞬言葉を失ってしまった。

「え…?な、なに…?なんかついてる…?」

不安そうに顔をぺたぺた触る渚はほんのり頬に赤みがさしていて、見慣れた顔のはずなのに…初めて見たような感覚に陥った。

「わり!なんか間違えた!なんもついてねーよ!つかホレ、返す」
「う、うん……」

受け取ったメガネをおずおずとかけ目をしばたたく渚。…うん、いつもの渚だ。でもやっぱなんか……

「な、なに…?じっと見て…」

小首を傾げる渚が、やけに可愛くみえる。
メガネはかけてるし、いつも通りの渚のハズなのに。

「う〜…ん……」

腕を組んで唸ってみる。
だけど俺なんかのちっぽけな頭では、いくら考えてみたところで出る答えなんて限られてんだ。

「なぎさ!」
「…っ…!は、はい…?」
「お前他のヤツの前でメガネとったりすんなよ!」
「え…?う、うん…?」

とりあえず思ったことを口にして、戸惑いながらも了承を示してくれた友人に約束だぞ!と爽やかに笑ってみせる。

「というかメガネとったら何も見えないし…春馬がそう言うなら、言う通りにするよ」

そう言って綺麗に微笑んだ渚は、うちのクラスで1番可愛いといわれている女子より数倍可愛くみえた。



***



そーいや渚のこと可愛くみえだしてなんとなくヘンな目で意識するようになったのってあん時かー。
そんなことをふと思い出していると、隣に座っていた渚にどうかした?と声をかけられた。

「いや?なんか渚が転校してきてすぐのテストん時もさ、こーやって二人で勉強したよなーって思って」

俺の言葉に、懐かしむようにしばし目を閉じたあと「そうだね」と答える渚。


俺んちでの勉強会。
もう何度目になるんだろうか。
いつもと違うことといえば、普段ならテーブルを挟んで向かい合って勉強すんだけど、俺が横に長いローテーブルを買ったってことと、部屋が異常に汚いせいで足の踏み場がないため泣く泣く隣同士仲良く並んで勉強してるってこと。

「…なぁ、あん時の約束覚えてるか?」

おそるおそる聞いてみた。

「うん…覚えてるよ」

真っ直ぐ視線が重なる。
思わずドキリと胸が騒いだ。


「…なぁ、またメガネ…貸して?」

口実だ。
メガネをとった渚の顔が、見たくなっただけ。

「え?うん…いいけど」

そう言って目元を覆っていた物質をとる渚を、じーっと見遣る。

「ちょ、見すぎだよ…」

俺からのあからさまな視線がうっとうしいのか恥ずかしいのか、冗談ぽく渚がはにかむ。


…その姿を見て、自分の中にあったなにかが、壊れた音がした。


――どさっ


「わっ…!ちょっ……」
「わっ、わりぃ…なんか……」

気付けば、思わず渚を押し倒してしまっていた。
渚は驚いたように目をぱちくりさせ、すぐに斜め下を向いてしまう。

「な、渚……こっち、見て」

心臓がばくばく音をがなり立てる中、切羽詰まったような声でそう言えば、渚は急に押し倒されたことを責めるでも咎めるでもなく、ゆっくりとこっちを見上げてくれた。

絡まる視線。
自分の下に感じる渚の体温。
なんだ、この気持ち……

「……春馬…」
「…っ!」

とびっきり綺麗な笑顔を向けられて、なんか、…キた。

「な、渚…」

ちゅーしていい?
口をついで出た言葉に、渚は驚くでもなく嫌がるでもなく、ハッキリと首を縦に振って微笑んだ。



--end------------





【あとがき】

『愛され馬鹿な人気者×隠れ美人ヲタク』お互いに鈍感で攻めがなんとなくムラッときて押し倒して初めて気づいちゃう的な!
という感じで承りました!
も〜最初から無自覚ラブラブじゃないですか〜も〜!やっとですか!やっとくっつくんですか!みたいな感じ目指しました(〃ω〃)
あと渚くんがオタクにならなくてすみません…;
お題提供ありがとうございました!

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