友達、温泉


最初にネタばらしをすれば、俺とわたると濠は幼なじみで誕生日も近く生まれた頃からずっと一緒だった。(病院でも新生児室で並んでいたらしい)

自我が芽生え、他人に興味が出始め、誰かを好きとか嫌いとかいう感情が幼いながら生まれた頃、俺は同性であるわたるのことを恋愛感情として好きだと気付いていた。
と同時に、もう一人の幼なじみである濠も、わたるのことがどうやら好きらしい…と、幼稚園児のちっぽけな脳みそながら濠への敵対心は育っていった。

――あれからもう何年も経つ。

いまだ俺達のわたるへの気持ちは変わる予兆すらみせず、むしろ高校生という成長期真っ只中のわたるを見て、小さい頃にはなかった劣情がどんどん大きくなっている。


「ねーねー樹莉にごーちゃん!温泉旅行のペア宿泊券当たったのー!」
「マジ?やった!オレと行くよな?」
「いいや俺だろう」
「え〜三人で行こうよ〜!一人分割り勘したって安いでしょっ」
「「………」」

というわけで、牧野樹莉17歳男。
好きな人とライバル引っ提げて、箱根の有名な温泉へと行くことになりましたとさ。



友達、温泉



「わ〜お布団三枚並んでるよ〜!ね〜どうする?やっぱここはじゃんけん?」

旅館に着いて、温泉に入って、飯も食って、もっかい温泉入って部屋に戻ってきたら、綺麗に三枚布団が敷かれてあった。

じゃんけん何だそうかな〜と一人楽しそうに意気込むわたるを他所に、俺と濠はこっそり目配せをする。
うん、と頷き濠が口を開く。

「なぁわたる、お前普段どっち向いて寝るんだ?」
「え〜?ん〜と、右かな?」
「「じゃんけんぽいっ」」

俺と濠の勝敗は……

「…っしゃぁあああ!」

見事俺の勝ちだ。

「ハイハイじゃあわたる真ん中でオレが右、濠がそっちなっ」
「…ちっ……くそっ」
「え〜!なんで〜!なんで二人でじゃんけんしてんのさ!つか俺真ん中決定なの?!」

気分上々で場を仕切る俺に不服そうな眼差しを向ける濠を無視して、さっさと自分の陣地に腰をおろす。

「わたるは真ん中なの。決定」

ねっころがって肘をついて手で頭を支えながら、にっこりと微笑む。

「な、濠?」

今俺の顔には、とんでもなく不敵な笑みが浮かんでいることだろう。



***



コンビニで夜食と酒類を買って、有料アダルトチャンネルを見るとか見ないとかでモメて(結局じゃんけんに勝ったわたるの意向により見なかった)、全力の枕投げをして、もっかい軽くシャワーを浴びて。

今俺は窓からさしてくる月明かりの元、隣ですぅすぅ寝息をたてている可愛い可愛いわたるを穴が空く程眺めていた。

「……樹莉」

と、可愛いわたるを隔てた向こうから低い声が俺の名前を呼んでくる。

濠も眠れないのか、そりゃそーだ。だって隣にこんな無防備なわたるが寝てんだもんな。

だがしかし。
返事をするのが煩わしかった俺は、余裕でシカトを決め込む。

「起きてんだろ、樹莉」
「…………」
「オメェ…わたるに何かすんじゃねーぞ」

苛ついた声が響く。

濠の言葉に俺はハッとして、わたるから目を離して上半身を起き上がらせた。

「…なぁ、濠」
「お前やっぱ起きてんじゃねーか」

川の字に敷かれている布団の真ん中で天使のように眠るわたるを起こさないように、四つん這いで濠の布団に潜り込む。

「なんだ気持ち悪い」
「シーッ。…卑怯なことしたくないから濠にも言うんだぞ?」

嫌悪の眼差しを浴びながら濠の耳元に唇を寄せ、ヒソヒソ声で伝えた俺の提案は……

「俺もやる」

予想通りガッツリ濠もノッてきた。




申告通り右を向いて眠っているわたるの身体をそっと仰向けにさせる。
んう…と出された声に俺達は一瞬ピクリと肝を冷やしたが、案の定ただの寝言だった。

「俺から先にやるぞ」
「……ドーゾ」

布団の場所決めじゃんけんに負けた濠の苛立ちはまだおさまっていないようで、迫力ある宣言に仕方なく先を譲る。

濠はゴクリと唾を飲んで、わたるのぷるっぷるの唇に自分のそれを重ねた。

「…っ長い長い長い!ハイ次オレだから!」

マジで十秒くらいキスしたまんまのバカ濠のスエットを引っ張って、強引に離れさせる。
ったく。初チュー譲ってやったんだからもうちょっと自重しろっつの!

キッと濠を睨んでから、すやすや眠るわたるの前髪をそっと撫でる。

「……好きだよ…」

小さく紡いでから、口づけた。
初めて感じたわたるの唇はほどよい肉厚で、たまらず唇を上下に動かしてその味を堪能する。

うっわやばい。
これはやばい、勃起する。

「……ぃ」
「…っおい!」

パジャマを強烈な力で後ろに引っ張られている感覚と、濠の怒りに満ちた小声の罵声は分かってるけど……もう夢中になってわたるの唇を貪っていた。

「……ん……ん"…ぅ…」
「「っ!!」」

わたるが苦しそうな声を吐く。
光の速さでわたるから距離をとって、同じく心臓をばくばくさせながら息を殺す濠と目を合わせた。

「…起きて…ない…?」

俺がそう発した瞬間、

「…ん…、…ぅ…あ…れ…?」

わたるの目がうっすらと開いて、口をあんぐり顔は真っ青な俺達親友二人組を眠そうな半眼がとらえた。



「あのね…ごーちゃんと樹莉にねぇ…ちゅうされる夢見てたぁ…」

体中に冷や汗がじんわり滲む。

わたるは目をごしごし擦り、まだ重たそうな瞼と戦いながら呂律も危うくそう零す。
かっ、可愛い…!けど!あぶねぇ!ほぼバレてんじゃねーか!

「…マッ、マジカ!そっ、そっか〜…チューなんてそんな、ね?まっ、とりあえず寝ようぜ?な?」

白々しく笑って濠を見やる。

「ソ、ソウダ。寝よう」

二人してカタコトになるという、ともすればバレバレな行為にも関わらずわたるは気付く素振りもみせず、ん〜…と機嫌の悪い子供のような声が返ってきた。

「…ねぇ…なんで二人は起きてたのぉ…?」

ってやっぱ不信がられてる!
のそのそと布団からはい出たわたるは、俺達二人の前にころころ転がりながらやってきた。

「たっ、たまたまだ」
「なんか隠してない〜…?」

どんどん表情が強張る濠に、わたるが擦り寄って上目遣いに訝しげな視線を送る。

「ボクだけ仲間外れなんて……」

今度はこっちを向いて、わたるは眉を下げ今にも泣きそうな潤んだ瞳をよこした。

ちょっ…と、もう俺耐えられないんですけど!

「…濠、俺達腹括る時なんじゃねーの?」
「なんのハナシ…?」
「………そ、うだな」

神妙な面持ちで、俺達は息を合わせて口を開いた。



--end------------





【あとがき】

お題:友達、温泉
ということで承りました!
なのに温泉の描写が0という…(-.-;)すみません;
ふたつの言葉からパッと連想したのが、幼なじみ三人で宿の布団でなんやかんやしてる図って感じでしたもので…|・ω・`*)
二人が長年隠してきた想いを告白……!ってところでおしまいです。なんというおわりかた…!
今から三人の関係が少なからず変わっていく、この感じが伝わってればいいなぁ´`*とおもいます。
お題提供ありがとうございました!

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