ツンデレ
最初に言っておく。俺はツンデレが大好物だ。
金髪ツインテール、釣り目、低身長、貧乳、お嬢様…そんで最後に釘○ときたらもうこれはツンデレだよね!
携帯ゲームの画面に映る、少しだけ頬を染めた強気そうな女の子の『べっ、別にアンタの為とかじゃないんだからね!』というお決まりの台詞をみながら、ツンデレはやっぱ萌えだなぁ…としみじみ頷く。
「…お前、学校でまでゲームしてんなよ」
一人で二次元の世界に浸っていると、ふと低いテノールが後ろ頭にかかった。幼なじみの郁人の声だ。
ゲームから目を離しゆるりと振り向けば、呆れたような幼なじみの視線とかち合った。
「なんだよ別にいいじゃんかー!誰にも迷惑かけてねぇし」
「かけてるだろ…。お前がプリントやんなきゃいけないっつーから代わりに購買行ってやったのに、なーにサボってんだ」
で、プリントは終わったんだろうな?と半眼が向けられ、えへへ…と渇いた笑いが出た。
ツンデレ
女キャラのツンデレってもうデフォルト大体決まってるけど、男キャラのツンデレっつーとどんなキャラになんだろ?
それが目下最近の俺の興味の矛先だった。
「なー?どう思う?」
「知らねーよ」
まだ本題について説明もしていないのに速攻で返されるテキトーな郁人の反応も、毎度のことだから別に気にしない。
なんとなくシャーペンを指でくるくる回しながら、ふと頭に浮かんだ台詞を完全な興味本位で口にしてみることにした。
「なー俺さー、お前のことが好きなんだけど。お前は俺のことどー思ってんの?」
ツンデレだったらここは『べっ別にアンタのことなんか好きじゃないんだからね!』だよな。
あーでも男だから『かっ勘違いするな、別にお前のことなんか…』みたいな感じか?
肘をつき、幼なじみの反応をニタァ…と頬を釣りあげながら観察する。
郁人は一瞬驚いたように目を見開いた後、汚らわしいものをみるような目付きで俺をじとりと見やる。
「凌……お前」
やっべーこいつマジに受け取りやがった!
こんなくだらないことで郁人との関係がぎくしゃくするなんてバカみてー。
「や!ちょっ!冗談だから!お前なに真面目にとってんだっつの!」
慌てて訂正し、ぶんぶんとかぶりを振る。
…まだ郁人の蔑むような眼差しが俺を捉えていた。
***
「ぶわ〜っくちょいっ」
郁人と並んで歩く通学路。
朝の冷え込みにぶるっと身体を震わせ、くしゃみと共に鼻奥にやってきた鼻水をずず…と啜る。
「風邪引いたのか?」
「いや?多分ちげー。さみぃだけ」
あっそ。と郁人はさして興味なさそうに前を向いて肩から少しズレた鞄を持ち替える。
しばらくそのまま会話もなく歩いていると、ふと横からの視線が痛いことに気付きバッと隣を見る。
郁人が面白いくらいじーっと俺を見つめていた。
「…?なんだよ?」
「…や、何でも」
俺と目が合うと郁人はサッと顔を逸らし、自分の首に巻いていたマフラーをしゅるっと解き始めた。
「…郁人?それとって寒くねーの?」
カシミアの高級マフラーを手に持つ郁人に首を傾げる。それ、宝の持ち腐れってやつじゃね?
こいつ意味分からんな…と訝しげな目線を送っていると、首元に温かな感触がした。というか郁人が何故か俺の首に自分のマフラーを巻き付けてきたのだ。
「うっわなにこれ超あったけー…」
これだけで体感温度かなり上がる。やっぱいいもんつけてっと違うな…ってそうじゃなくて!
のほほんと享受していた自分に突っ込みを入れ、巻き付けられたマフラーをほどこうとする。と、
「…いや俺はいい」
「は?」
手でいらないのポーズをとった郁人は、ぽかんとする俺を置いてスタスタと歩みを速めた。
「…っいやいやいや意味分かんねぇから!」
追いかけて声をあげても、郁人は頑なにマフラーを受け取ろうとはしない。
仕方なしに自分に再び巻いた幼なじみのマフラーに鼻をつけると、ふわっと嗅ぎなれた心地好い匂いがした。
***
「ツンデレ……じゃね?」
自室でひとりごちる。
俺の考え過ぎでなければ、最近の自らの興味の模範解答を持つ人物が身近にいることになる。
つか、よくよく思い返せばそんなよーな事例はいっぱいあった。
文化祭準備の時、俺が張り切ってタテカン(立て看板)作ろーと釘打ってたら、そういやあいつトンカチ引ったくって釘打ち代わってくれてたっけ。
あん時は釘打ちの代わりにペンキ塗りとかいう作業命じられてむかつくくらいに思ってたけど、よく考えれば危ねー作業を代わってくれたってことなのかもしんねぇ。
そういや体育ん時に片付けしてた俺からハードルを引ったくって手伝ってくれたのも郁人だし、なにかっちゃあ理由をつけてサボろうとする俺に文句言いながらも付き合ってくれんのも郁人だ。
「郁人か……」
単なる幼なじみと思っていたが、ツンデレだと考えると非常になにやら萌えてくる。
「……アリだな」
ぼそりと呟いて、ぐちゃぐちゃに絡まっていたヒモが綺麗にほどけたような開放感に満足しながら床についた。
***
「なぁ!お願いがあるんだけど!」
「数学のプリントだったら写させねぇぞ。何だ?」
「“別にお前の為じゃないからなッ”って言いながらプリント見せてくんね?」
「はぁ?」
果てしなく呆れきったようなため息が聞こえる。
郁人ツンデレ大作戦は呆気なく失敗に終わった。チッ。
俺はぶうぶう頬を膨らませながら、それでも当初の目的である数学のプリントの為にもう一度郁人に手を合わせて頭を下げた。
「じゃー普通でいいからプリント見してくれ!」
なんだかんだ言いながらいつもみたいに見せてくれんだろうなと高を括っていたら、郁人は一向にプリントを取り出す素振りをみせない。
「ねぇみーせーて〜」
頬を膨らませ駄々をこねれば、目の前の幼なじみは横目でなにかを訴えかけてきた。どうやらタダでみせてはくれないらしい。
「なぁ凌」
ん?と首を傾げる。
すると郁人はちょっと聞くけどさ、と前置きをしてからゆっくりと口を開いた。
「お前俺のこと何だと思ってんの?」
「え、ツンデレ?」
しまった、と思った。
条件反射で答えちゃったけど、おそらく郁人が言いたいのはそういうことではなく、俺がいいように郁人の世話になりっぱなしなのを遠回しに咎めてるんだろう。
急に自分がいたたまれなくなって両手をもじもじと弄りながら、視線を逸らす。
「ツンデレ、ね…」
その言葉の意味を吟味するかのような含みのある言い方に、ギクリとした。
こいつ何言いだすんだろ…郁人一回ヘソ曲げるとけっこー面倒くせぇんだよな……
チラ、と郁人を視界に入れる。
何故か口の端を少し上げたしたり顔の幼なじみが、そこにはいた。
「凌さ、」
「な、んだよ」
「お前ゲームばっかやってるから感覚マヒしてるんだろうが…ツンデレってのはさ、相手のことを好きってのが大前提での話じゃないのか?」
「…え……あ、」
ん?と尻上がりに言われハッとした。
たしかにそうだ。ゲームでは主人公は無条件で好かれてて、それが当たり前で。
ツンデレキャラっつーのは元々好きな人に対してだけデレる奴のことなんだった。
「それで?何でお前は俺がツンデレだと思ってるわけ?」
なんでこいつこんな上機嫌なんだ……。
でもたしかにそうだよな。あれ、何で俺、郁人のことツンデレって思ったんだっけ……
「え…と、えと……ん?…なに、郁人もしかして俺のこと好きなの?」
いやいやそんなはずないだろうとは思いつつ、スッと頭に浮かんだ答えを投げ掛ける。
「…どうだろうな?」
そう言ってニヤリと不適な笑みを浮かべる幼なじみ。真意を読み取るのは不可能だろこれ…。
マジでからかわれているのか、まさか本気なのか、それとも本当にただの揶揄なのか。
俺には皆目検討がつかないけれど、あわよくば俺の予想が当たってくれてればいいなぁと心の隅っこで祈りつつ……負けじと俺もドヤ顔を作った。
「俺、ゆっとくけどツンデレ大好物だからね」
フン、と鼻をならす。
「…そんなん昔から知ってるっつの」
十年来の幼なじみと、今更になってのこんな駆け引きじみた会話。
「凌のツンデレ好きは筋金入りだろ」
「まぁね」
うん、悪くない。
「いくとぉ」
「何だよ」
俺がツンデレ好きになったのはもしかしたら郁人のせいなんじゃねーかなー?
言おうと思って、やめた。
--end------------
【あとがき】
『ツンデレ』
kotaの中でツンデレといえば長身で眼鏡かけてて「フン…ッ」とか言いそうな感じなんですがどうなんでしょうか。ツンデレ大好きです。
郁人くんはどっちかというとぶっきらぼうキャラ…?う〜んでもツンデレですよ!(`・ω・´)眼鏡はないけど長身設定です!「フン」は凌くんが言っちゃってますが(笑)
お題提供ありがとうございました!
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