不良ファーストキス


オレらのクラスで最近流行ってるコト。

それは、

「はいじゃ〜ヨシキ罰ゲーム〜!今日は『クラスで一番可愛い女子にコクる!』うわなにこれ今日いいやつじゃ〜ん!」

何かにつけて勝負事にし、負けた奴には八割方悍ましい罰ゲームをさせること。

つーかヨシキ、運良いな。
今日の罰ゲームはすこぶる簡単だし、もしかしたら可愛い女子と付き合えるかも知れない可能性までついてくる。なんだこれ、超うらやましいんですけど。



不良ファーストキス



「12」
「15」
「9」
「っわあぁ〜…」

今日の勝負は『体育のバスケの時間、何本シュートを決められるか』だった。
オレだってスリーポイントとか決めて超頑張ったのに、点より数が勝敗を分けるということをすっかり忘れてしまっていた。

「はいタケル罰ゲーム〜!」
「今日って何だっけ?」

一人体育館でうなだれるオレをよそに、仲間はやんややんやと騒いでいた。ちなみにまだ一応授業中である。

「タケ、ターケ!」

仲間の一人…昨日罰ゲームの餌食になったヨシキが、オレの肩をぽんと叩く。

「今日はやべーやつだ、残念」

は?と咄嗟に言えば、憐れみに満ちた友人の視線が返ってきた。

嫌な予感しかしなくて、突然喉がひっつきそうなくらいカラカラになった。



***



「あ、あの…!」

昼休みになってオレは昼メシもそこそこに、とある人物を必死に探し回っていた。

「……?」

学校内をくまなく巡ってようやく屋上でターゲットを発見した時には、肩の荷がおりた気分だった。が、大変なのはここからである。

「すんません、森崎達央さんスよね?…オレ、一年D組の佐藤健琉っていいます!」

森崎さんは普段あまり人の寄り付かない屋上で誰と喋るでもなくただ一人で、ねっころがって日光に身体をさらしていた。
両腕を枕にして気持ちよさそうに目を閉じているこの学校一のコワモテな不良さんを起こすのは大っ変気が引けたのだが、罰ゲームなのだから仕方がない。

「…………何だ」

けだるそうに起き上がって長めの前髪をかきあげ、シャツの胸ポケからタバコを取り出して慣れた手つきで火をつけた後、恐ろしく低い声で初めてオレに向けて言葉が発された。

こ、こえぇんですけど…!
怒ってる…!この人怒ってるよ…!

「す、すいません…っ!え、えっと…その…」

急に萎縮しだして歯切れの悪くなるオレに、明らかに苛立ちのこもる鋭い視線が突き刺さる。

ええいこうなりゃヤケだ…!
あとでボコられっかもしんねーけど…!

「森崎先輩、すいませんっ!」

イライラしながら彼がタバコを吸い終わり火を完全に消したのを見計らって、オレは免罪符…になるかわからないがとりあえず最初に謝ってから行動にうつることにした。

「…っ、」

完全に油断している森崎さんの片手を握りこっちへ軽く引っ張る。
体勢が崩れかけて前のめりになった彼の唇を、一瞬でかすめとった。



『うちの学校で1番恐いヤツにキスをする』

それがオレに課せられた使命だったのだ。



「…ッ…!……テメェ…」

今にも殴りかかられそうなドスの効いた声色と怒りに満ちた表情。
思わず短く口をついて出た「…ひっ」という声に、更に森崎さんの眉間のシワが濃くなるのが見えた。

「す、すいませんすいません!」

本当はそんまま逃げようと思っていたが、どーせあとで探しあてられてボコられるんなら今この場で罰を受けた方が気持ち的にラクだ。
だから必死で謝罪の言葉を繰り返し、拳を握り目をギュッと閉じてきたるべき衝撃と痛みに覚悟した。

「…っ…すいません…すいま……アレ?」

いくら待っても殴られる気配がなく、おそるおそる瞼を開けて目の前にいるはずの人を窺う。
どんな鬼のような形相してっかと思えば、うちの学校でいっちゃん恐いとみんなから一目置かれている二年生の森崎達央というその人は、今まで見たことがないくらい顔を赤くして…口元を手の甲で押さえながらこちらをキッと睨んでいた。

「え…え?と……先輩……?」
「っのやろ…」

昼寝を妨害しにきた見知らぬ男の後輩に当然唇を奪われるなどという、完全に罰ゲームの当て馬にされた感アリアリの現状にあまりの怒りで顔を赤くしたらしい森崎さんは、わなわなと微かに怒りで震える手の甲からくぐもった声を出した。

「…は、初めてだったんだぞ…!」
「…………え!?」

突っ込むべきところは山ほどあるのに、なんにも言葉にならなくて。
オレはキョトンと目の前の意外にも相当純情な不良さんを見つめながら、ふつふつと沸き上がってきた言い知れぬ感覚に……とりあえずこの罰ゲーム当たったのが自分でよかったなぁと考えていた。



--end------------





【あとがき】

『不良ファーストキス』
ヤンキーグループの話バージョンも実はちょっと書いたのですが、こっちの方が自分的にしっくりきたのでこちらにしました^^*
森崎先輩が周りから恐れられてるのはただ単に見た目が怖いのと喋るの苦手ってだけで、その実めちゃくちゃ可愛い人だったりするといいなぁ。いや絶対そうなはず!そしてその可愛い部分を、タケルくんだけが見付けてあげられたらいいなぁ。
お題提供ありがとうございました!

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