「明日もし世界が終わるならどうする?」
「え〜オレ?う〜ん、やっぱいつも通りかな〜。だって人間いつ死ぬかなんか分かんないし」
そう言って咲弥はへらっと笑った。
マサこそどうなんだよと肘でつつかれ、自分はどうだろう…とふいに真剣に考えてみる。
「明日もし世界が終わるならどうする?」
――明日もし世界が終わるなら。
咲弥に自分の気持ちを伝えて、できることなら…できることなら、俺のものにしてこの場からかっさらってやりたい。と思う。
このまま一生告げる機会は訪れないだろうこの想いを、最期に言ってしまえるのなら。それが許されるのなら。
「…好きな奴にコクるかな」
ぼそりと呟き、窓の外を見つめた。
教室から見える風景は、いつもと変わらずだだっ広いグラウンドと、古びたサッカーゴールと……もう満開になった桜の木が、風に揺れて花びらをパラパラと落としていた。
ひらりと舞った薄桃色のカケラを何の気無しに目で追うと、昨日降った雨のせいで出来た水溜まりに、ゆらゆらとゆっくりと浮かんだ。あぁ…と思わず眉が下がる。
「…ねぇ」
視界を遮るようにこちら側に寄ってきていたらしい咲弥が、何やら神妙な面持ちで顔を覗き込んできた。
「っ…な、何?」
なんだか心を見透かされた気がしてドキリとしながら目の前の男と視線を合わせる。
にっ、と軽やかに微笑んだ咲弥は
「マサ、好きなヒトいたんだ!」
だれだれっ?なんて、まさか自分のことだなんて微塵も思っちゃいない、無邪気な顔を向けてきた。
「秘密」
平静を装って、軽く微笑む。
「え〜!俺の知ってるヒト〜?」
思いの外食い下がってきた咲弥は、ねぇ!ねぇ!と俺の肩を揺さぶってくる。
「…だーから、秘密だって」
揺さぶられているおかげで視界がブレる。
それでも咲弥の顔だけは、変わらずに俺の網膜に映り込んでくれるから困るんだよ。全く。
しばらく同じ調子ではぐらかしていると、ふと手を止めた咲弥は俺を真っ直ぐに見据えて真剣な声でこう言った。
「マサ?人間、いつ死ぬかわかんないんだよ?」
だから告白しろとでも言われているかのような物言いに、何も分かっていないくせに軽々しく諭される感覚に、無性に腹が立った。
「…お前は好きなヤツいないのかよ」
気付けば、ぶっきらぼうに返して投げやりに視線を落としていた。
「うん、いるよ?」
そんな俺の様子に気付くはずもない咲弥は、飄々とそう言って嬉しそうに首をもたげニッコリと笑った。
左胸にガツンと衝撃と痛みが走る。当然外傷的なそれではなくて、精神的に。
なんだ。
俺、コクる前にフラれてんじゃん。
「…あ、そ。じゃー咲弥も好きな奴に告ってこいよ」
冷たい口調で言い放てば、
「え〜!ど〜しよっかな〜?」
軽い言葉と、にこやかで満更でもない表情が返ってきた。
そうか。言うのか。
きっとお前の好きな人は咲弥にお似合いの可憐でそこそこ頭の良いお嬢様なんだろうな。
そんで咲弥の勇気のおかげでめでたく結ばれた二人の惚気話を、俺が聞く羽目になるのか。
どす暗い未来のシミュレーションを勝手に繰り広げながら、再び視線を窓の外へとやる。
見上げた空は澄み切ってどこまでも青く、そして高くて。
自分の心とまるで反比例な様に思わず目を細めた。
「そーだよね、明日世界が終わるかも知れないもんね、うん、わかった言うよ」
ねぇマサ……と続けられた言葉を、冷静に聞いていられるはずがなかった。
--end------------
【あとがき】
「明日もし世界が終わるならどうする?」をお題なり、台詞なり、で。
ということで承りました!
ガッツリ両方で使わせていただきました。
あの終わり方は個人的には気に入っています。ああいう気になる終わり方って好きなのですよね…!
マサくん絶っっ対固まったよね驚いたよねうんうんでも良かったね…!σ(・´ω`・)
お題提供ありがとうございました!
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