act.51
一時間後、待ち合わせをしていた近くの公園に颯爽と現れたモデル水沢コウは、ベンチに座って足をぶらつかせていた俺を見付けるなり人目も憚らずいきなり抱きしめてきた。
「っ!?せん、ぱいっ…」
うああ近いっ。
心臓が急にばくばくと音を立て始めてしまう。
あの日以来先輩と会うのだって初めてで、ましてやこんなにくっつくなんて…まだまだ慣れる気配がない。
でも、リアルに感じる先輩の体温と、唇に伝わる首元のしっとりと汗ばむ肌と、先輩からほんわり香るの品の良い香りに、ひどく心が落ち着くのもまた確かで。
「嬉しいです。会いに来てくれて」
「そりゃ行くさ。…安心した?」
身体を離されん?と口元が優しく孤を描く。
「すっごいすっごい安心しました。んも大っ好……ッンン"!」
盛大に愛の告白をしようとした途端、公園のすぐ横の道路を自転車に乗った女の子がスー…っと通りかかるのが見え、慌てて途中で咳ばらいでごまかした。
やばい。今おれ全然周り見えてなかった。完全に二人の世界に入ってた。
夏の夜中に公園で向かい合う男同士なんて、しかもそれが水沢コウだなんてことがバレたら…。
「ははっ。大丈夫だって。イヤホンしてたしこっち見向きもしてなかっただろ」
「で、も……」
「中村クン顔真ーっ青。せっかく会いに来たのに、そんな顔すんなっつの」
両手で頬を包まれ、まるで労るようにすりりと撫でられる。
恥ずかしいのと、申し訳ないのと、先輩の顔があまりに近いのとで思わず目を閉じれば、すっ…と顔に影がかかるのが分かった。
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