act.48
「…っは…は、わり!…っ出して、ほら」
口の中に広がる生臭いにおいと、飲み込むにはあまりにもねっとりし過ぎたその液体を持て余してモゴモゴさせる俺に、ささっとティッシュが渡される。
あぁもうちくしょう……絶対飲んでやろうと思ってたのに。
「っぱ、す、すみません…」
「すみませんはこっちの台詞だっつの。ったく……」
呆れているというよりは恥ずかしさをごまかしているような、そんな顔の先輩がこちらを見下ろしていた。
「でもおれ、嬉しいです。先輩イッてくれると思わなかったから」
「…〜っ。おま、そんな台詞…」
うわ、先輩顔真っ赤だ。か、可愛い…。
なんかガマンできなくなって、じわりと俯いている先輩の隣にちょこんと座って、思い切り抱き着いてみた。
「中村クン…っ」
「あ〜…も、好きです。すごい好き!たまんないです。なんか」
先輩の肩にちゅ、と吸い付いてから、まるで子供のようにぎゅううと抱き着く。
先輩も背中に手を回してくれて、きちんと抱き返してくれた。
「…俺も……好…だよ」
「もっかい言ってください」
「〜…っ、やだよ!恥ずい!」
耳元で聞こえた小さな『好き』をもっとちゃんと聞きたくておねだりしてみたけど、それっきり先輩は拗ねたように何も言わなくなってしまった。
「せーんぱい」
「な…っ、に…」
耳たぶをかぷっと甘噛みしてから身体を離す。
耳を片手で押さえながら、先輩はまだ照れの残る顔でこちらを見遣る。
「好きです。本当に。先輩も…いつか同じくらい俺のこと好きになってもらいたい、な」
「そんな心配すんなって。大丈夫だから」
な?と優しく頭を撫でられて、反射的にハイと頷く。
そうは言うけど先輩、本当に俺のこと好き?本当に本当に、俺のこと好きでいてくれてますか?
――なんて。聞きたかったけれど、あんまり言うのも女々しいし…。今は先輩にこうして甘やかしてもらってるだけで幸せだから満足だ。うん。
部屋には、付き合いたてのカップルらしい甘くて淫靡な空気がもわもわと漂っていた。凄く心地が好い。
このまま時が止まってしまえばいいなぁ。…だけど、このまま人生が終わってしまうなんて勿体ないよね。また先輩とこうやって愛を確かめ合っていける機会がきっとあるのに。
「なーに笑ってんの」
「え?へへ、なんか嬉しくて」
ふふ、とどうしてもニヤけてしまう表情筋を抑え切れず、だらしない顔のまま先輩を見つめる。
先輩はふわりと綺麗に微笑んで、愛しさのこもったキスを贈ってくれた。
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