act.45
「先輩っ……!」
「こら待てまだ玄関っ…ん…っ」
盛りのついた犬のような俺にキスをせがまれながら、先輩が後ろ手に鍵をカチャリと閉めた。
そのまま先輩をドアに押し付けるようにして深く口付けて、何度も角度を変えてはお互いの好きの気持ちを唇に乗せて擦り付け合う。
あぁ、先輩もちゃんと俺のこと、そういう風に好きでいてくれてるんだぁなんて、頭の片隅でふとそんなことを感じてますます火がついた。
「ん…っは…っ、ちょ、中村クン…ストップ」
「…な、んですか……」
不服を隠さずに先輩を見上げる俺に、諭すような微笑を浮かべてこっち、と手を引いてくる先輩。
おとなしく寝室までは我慢していたけど、視界にベッドがチラついた途端『待て』を解除された犬のように、先輩をそこに押し倒して唇を押し付ける。
「んっ…!んんっ」
「んぅ……はっ…先輩…せん、ぱい…好き…すきです…」
譫言のように繰り返して、先輩の白い首筋に吸い付いた。
「んっ、中村クン……」
先輩が甘く名前を呼んで、頭を撫でてくれる。くしゃ、と指に髪を絡めるようにして撫でられれば、それだけで嬉しくて胸が張り裂けそうだ。
「せんぱい…」
首元から顔を離して、先輩をじっと見下ろす。先輩の細くてツヤのある髪の毛がベッドに綺麗に舞っていて、あの水沢コウを今俺は組み敷いているんだと、俺が押し倒しても抵抗せずむしろこんな優しい表情で見つめてくれるんだということにひどく心が満たされた。
「なんかもう……やばい…です」
「ん、知ってる」
体勢的に俺が先輩に跨がっているから、先輩のお腹辺りに俺の股間がちょうど当たってしまっている。同じ男として今の俺がどんな状況かなんて手に取るように判るだろう。
先輩は嬉しそうな口調で口元を上げ、下から挑発するように腰を突き上げてきた。
「んっ…、ちょ、先輩!」
「ふは、なんかいーなぁ。中村クン、可愛い」
むぅ…とわざとらしく拗ねたように頬を膨らます。
「……もしかして煽ってんの?」
「そんなつもりはない、です」
「嘘つけ」
ぐるりと視界が半回転して、あっという間に形勢を逆転された。
あ、でもこれ、先輩に押し倒されるの、すごい良いな……求めてくれてるみたいで、嬉しい。
「すげぇ可愛い。その顔」
「え?…んっ!んんぅ…っ」
頬をすりりと撫でられ、そのまま静かにキスをされる。
手をぎゅっと握られて、指を絡められて。深まるキスの間に漏れる二人の吐息がどうしようもなく俺を興奮させた。
「脱がせていいか?」
きっと言い慣れているであろう言葉。
先輩はさらりと言って俺のシャツのボタンに手をかける。
「や…ちょっ……そ、それより、先輩のを脱がしたいです」
俺の返答に先輩が訝るように眉をしかめたのが分かった。でもそれは一瞬だけで、瞬きをしたその次には全てを悟ったようにニンマリ口に孤を描く。
「中村クン……もしかして恥ずかしい?」
「ちっ…違っ」
違くはない。たしかに恥ずかしい。うん。
でも俺が服を脱ぎたくない一番の理由はそれではなくて。
先輩は察するに男と付き合うのは初めてだ。と、いうことはノーマルな性癖ってことで、性的興奮の対象は女性のはず。
それでも男の俺と付き合ってくれたってことは、まぁもろもろそういう行為込みで了承してくれたんだろうけど……頭で思ってるのと実際それを目の当たりにするのではワケが違う。
キスとかはその場の雰囲気とかで何とかなるし、そこそこそういう気分にもなるかも知れないけれど、いざ男のカラダを見て…萎えて『やっぱ無理』ってことにでもなったらいたたまれない。というかその可能性が高い。そんなことになったら俺…おれ……
「…中村クン。すげぇ、いま何考えてんのか手に取るように分かっちゃうんだけど言っていい?」
グルグルと一人で思案して青ざめているであろう俺の頬を現実に引き戻すように両手で包まれて、先輩は優しく笑った。
「せんぱ……あの……あ、」
口をぱくぱくさせていると、急に片手を掴まれてどこかへと誘導させられる。
何だろうと意識を手元に集中させれば、なにか硬いものが当たる感触があった。誘われた先は、先輩の股間。
「…分かる?」
「わ…かり、ます」
ちょっと照れたようにはにかまれて、つられて顔を赤くしながら頷いた。
先輩もたってるんだ…俺とこういうことして…先輩も興奮、してくれてるんだ……。
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