長編小説「キタコレ展開」
2周年記念小説
* * *
俺の好きな人、横田。天使。
高校に入ってわりと早くこの天使への恋心を自覚しながら、それを隠したままずっと親友として過ごしてきた。
そんな天使…もとい、横田と修学旅行でまさかのなんやかんやがあって、その後めでたく俺達は結ばれた。
これだけ聞くと順風満帆で今が1番楽しい時期だろこのやろうリア充爆発しろと思われそうだが、実はそうでもない。
いや、もちろん親友から恋人に昇格したんだからそりゃ嬉しいし幸せなんだけどね。
あの時以来、大好きな横田に俺はまだ手を出せていないのだ。チューはおろか手すら繋いでないとか!
……ちょっと正気の沙汰じゃないだろ?健全な男子高校生同士がお付き合いを始めたら、もうこれぶっちゃけヤリたいとかヤリたいとかそういうこと考えるに決まってるよな?
修学旅行の打ち上げのあの日チューした俺の勇気を讃えて欲しい。
あれから約3ヶ月。
今季節は目下真冬で、冬休み真っ最中だったりする。
キタコレ展開 番外編
恋人達のクリスマス。
その日横田は、普通に俺の家で家族と一緒にクリスマスパーティーに参加していた。
うちの家族は基本みんな横田大好きなので、高木家こぞって横田をもてなして楽しい楽しいクリスマスパーティーが開かれたんだ。それはいい。うん。それはいいんだよ。
まぁこっちとしては「夜も遅いしもうよこたん泊まってけよ」ルートで俺の部屋でフラグ回収するはずだったわけです。はい。
でも現実は、普通に横田が帰宅なされて俺近くまで送ってはいおわり。あっれ…?と。
横田は俺のことを好きだと言ってくれた。そして俺も横田が好き。俺は当然そういう意味も含めまくって好きなわけで、お付き合いを始めたからにはそういう展開を望んでいないわけがない。
横田は違うのだろうか?
付き合う前にああいうちょっとえっちな事をしちゃったから、俺としては余計に手ぇ出しにくいんだよな……しかも横田全然そういう雰囲気出さないし。何考えてっかいまいち分かりずらいからなぁ……
一緒に居ても、友達だった頃とそう変わらない態度というか、ほんと心なしか横田の台詞が増えたくらいで……
やーね、別にね、いいんだよ。横田がしたくないならいいんだよ。……とか強がってみても、なぁ……
いい加減写真と思い出と妄想の横田で抜くのも終わりにしたいなんて考えてたら、突然その横田くん本人に俺は押し倒されていた。
「………………………えっ!?」
何の前触れもなく発生したこの不測の事態に一瞬フリーズしたものの、漸く出た驚きの言葉と共に目をかっ開いて真上にある天使の顔を見上げる。
横田は、無表情のまま俺を見下ろしていた。
「よ……横田くん…?」
「た、たかぎ」
な、なんだよ、と妙に格好付けながら横田をじっと見つめる。なんで格好付けたんだ俺は。混乱し過ぎだろ。
横田は尚も顔色を変えず、俺の名前を呼びながらすっ…と顔をおろしてくる。
――願ってやまない、横田からの、キス。
目を閉じてそれを受け入れる。
うわ……三ヶ月ぶりのキス、とか…。やばい。股間が既にやばい。
久しぶり過ぎるこの感触。心の底からくつくつと満たされるような気持ちが溢れてくる。
だってしかも、横田からしてくれた。この事実を素通りにはできない。
…触れるだけの軽いキスはすぐに終わってしまって、俺と横田の間にまた数センチの距離ができる。
「高木」
「ん…?」
横田と気持ちが通じ合ってから、あの時以来のこういう雰囲気。うん、悪くない。
――そう思ってたのに。
何故か横田は眉をしかめていて、俺の顔の横につかれた手に力がこもったのを感じた。
「ご、ごめん」
横田はぱっと身体を離して起き上がる。
「何で謝んの……」
言いながら俺も身体を起こして、申し訳なさそうに顔をしかめる横田の前髪にそっと触れた。
「横田、なに?何かあった?」
今にも泣きそうな顔をする横田に怖ず怖ずそう尋ねる。
デフォルト無表情な横田がここまで悲しそうな顔をするなんて、よっぽどのことがあったに違いない。しかも俺とチューしてこの顔ってことは、えっと……深く考えたくないけど……
「も、もしかして…俺に関係、し…ますか?」
つい敬語になりながら横田を見つめる。横田はゆっくりと頭を下げて、肯定を示した。うわ、やっぱり。
なんだろう……思い当たる節はいっぱいあるけど……横田の隠し撮り写真がバレたとか、その写真を無断加工してコラッたりしてるのがバレたとか、しかもそれで横田くん抱きまくらを作ったことがバレたとか、横田がうちに来た日は横田が使ったコップとか洗わずに舐め回してたことがバレたとか……いやいやでもその流れだとチューすらしてくれんだろう、いやむしろ選別的な……
「俺のこと、気持ち悪くなった、とか?」
「えっ」
この質問に驚くってことは違うみたいだ。安堵したと同時に、もっともっと考えたくない理由が頭に浮かんでしまった。
付き合っているのにここ三ヶ月ろくに恋人らしいことをしなかったのは、やっぱりその……俺が男で、言わずもがな横田も男で、同性相手に好きとかちちくりあうみたいなことがよくよく考えたらおかしいとか、冷静になって俺のことなんか別に好きとかではなかったとか、ほかに好きな奴ができたとか、そんな類いの話しか……
「たっ、高木、泣くなよ」
「へ……?」
気付くと俺の頬にはツー…と何か冷たいものが垂れていて、心配そうな顔をした横田がこっちを向いていた。
あれ、俺泣いてる…?
自覚した途端に堰を切ったかのように涙腺が崩壊した。
視界が涙で溢れて前が見えない。
大好きな横田の顔が、見えない。
「あ"…わ、もう…ごめ"…」
汚い声で謝りながら目をゴシゴシ擦る。
あーもうまずい。さっきのキスも、今の横田との関係も、何もかも全て終わってしまうなんて……堪えられない。死にそう。
「………っ。高木、」
きっと何て声をかければいいのか分かんないんだろう。横田は暫く間を置いてから、ゆっくり俺の名を呼んだ。
返事をする代わりにぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
――次の瞬間、俺は横田の腕の中にいた。
「わ"、よごだ…ッ、う"……」
あまりにあたたかい横田の温もり。背中に回された手は震えていて、精一杯俺を励まそうとしてくれてんのが分かって余計に泣けてくる。
「ごめ"……っ」
「何でそんな泣くんだよ」
横田は俺の背中をさすりながら聞いてくる。
ああもう、この優しさが余計に辛い。
「だっ…だっで……、よっ…横田ともう…こんな…別れる"……とか……っ」
とてつもなく格好悪く、縋るように横田の服を掴みながら吐露する。
あぁもうこんなん俺、嫌われて当然だ。
「横田……好ぎ…だ……」
「ん、俺も」
「………え…?」
「…?」
ん…?
横田くん、俺のこと好きなの…?
訳が判らなくなり完全に混乱した俺は、横田から離れてもう一度目を擦りクリアになった視界で再度横田をじっと見た。
「えっと、横田くん……俺のこと振ろうとしてたんじゃ…?」
「え、なんで」
「だってほら、その、俺関係で何か嫌なことっつか後ろめたいこと?あるってさっき……」
「あぁ、……うん」
言われて思い出しましたみたいな顔して横田は気まずそうに頷いた。
そんな抜けたとこも好きなんだけど、横田くんほんっと何考えてんのかわかんねぇ…!
「え〜…、なに。聞くから。言って」
部屋の壁に背中を預けて体育座りをする。すぐそこにいる横田は、もじもじと手元を見ながら口を開いた。
「…だ…から……その、高木とあれから、…そういうことしてなくて、…えっ…と……高木は…嫌なのかなと思っ……て…」
途切れ途切れにそう話す横田を見ていたら、やっとさっきのいきさつが見えてきた。
要するにあれだろ、横田も俺と同じ気持ちだった、ってこと…でいいんだよな…?
さっきまでの胸が閊えるような重い気持ちがスッと消えていく。よかった。俺、よこたんに嫌われてなかった。これからも横田の隣にいていいんだ。
あぁ、横田も俺と、同じ気持ちなんだ……
つか俺達、意思疎通出来てなさすぎだな。言わなくちゃ、伝わるものも伝わらない。
「嫌なわけないだろ。むしろ俺の方が我慢してたっつの……ごめん」
「……え?と…」
「だから、俺だってその、お前と色々……シたい、です」
急に恥ずかしくなって手で顔を隠しながら言えば、横田くんの顔も微かながら赤くなってるのが見えて……二人してじわじわと俯いた。