互いの利益のために1
短編小説「互いの利益のために
2周年記念小説




* * *



我ながら、よくもまぁあんな大それたコトをしちゃったなぁと思う。
過ぎたるは及ばざるが如し。なんて、たしかこんなことわざあったよな?うんうん正にそんな感じ。

「どーすっかな〜…」

アイスコーヒーをとくとくグラスに注ぎながら、俺の部屋できっと借りてきた猫のようになってるであろう秀一にどう話を振るべきかと、首を捻りながらひたすら考えをめぐらせていた。

「っわ、やべ」

ブラック派の秀一のグラスにうっかり大量のガムシロを投入したところで、うだうだ考えるのは性に合わねぇんだなと苦笑が零れる。ま、なるようになんだろ。つかなるようにしかなんねぇ。


「お待たせ秀一く〜ん」
「おうサンキュ、……って甘っ!」

うげぇ、と不愉快そうに顔を歪ませる秀一をじっと見つめる。

「お前……嫌がらせか?」
「まっさかー!」

けたけたと笑う。たまには甘いコーヒーもいいじゃないかと肩をさすって、俺も自分のグラスに口をつけた。



互いの利益のために 続編



秀一とは中学の時に出会った。二年で同じクラスになってそっから意気投合。お前らホモか!とツッコまれる位には仲が良かった。これって今思えばすげーことじゃね?

ま、そんな風に周りから茶化され始めたくらいに、俺は自分の中にある秀一への感情の変化に気付いたわけだ。
そういえば友達は昔から多かったけど親友と呼べる存在なんて初めてだなとか、なのにその親友が女子に囲まれてんの見てそっちに嫉妬心が芽生えるってどうよとか、考えだしたらキリがなくて……俺は思考を止めた。

丁度その時期に隣のクラスの女子にコクられて付き合うことにしたんだけど、あ〜…結局全然その子のことなんか好きになれなくて、っつか秀一にそのことを知られたくなくて、隠しながら付き合って手さえ繋ぐこともなく、俺は彼女に盛大にフラれた。
『ほんっと和成には秀一くんしか見えてないの?!全然アタシのことなんか好きじゃないんじゃない!』――何度言われたんだろう。何人かと付き合ってみても捨て台詞は皆同じで、これでよく秀一にバレなかったなぁと今思えば苦笑いしか出てこねぇ。


高校に入ってからは彼女作んのもやめた。
どーせ作っても仕方ないし、偽りの恋人との時間なんて無駄なだけ、だったら秀一と一緒に居る時間を増やしたい。単純にそう思って。

「な〜秀一」
「なんだよ」
「好き」
「………は?」

面喰らったような顔をする秀一にニシシと軽く笑ってみせる。
秀一はまともな返答もないまま、好きではないはずのゲロ甘コーヒーをずずっと一気に飲み干した。

「……おーいもうそれ空だぞ。お代わりいるか?」
「…っ、あぁ、頼む」
「あーいよっ」

取り繕うのも一苦労だ。心臓ばっくばくいってっし、なんで今俺告白しちゃったんだろマジで。つか告白なのアレ?あんなの普通に流せばいいのに、なに真面目に受け取って困っちゃってんの。あーなったらもう収拾つかねーじゃんもう俺のバカ!



「……あ〜……もぉ……」

部屋から出て一階まで降りたところでへなへなとしゃがみ込む。

コクる気なんてさらさら無かった。つかそもそもあんなことする気もなかった。いや、あんなことする機会があるなんて思いもしなかった。
あの時だって、秀一に少しでも拒まれたら全力で冗談にするつもりだった。なのにあいつ全然そんな素振り見せねーんだもん。…まぁ、アレを出させて飲んだのは結構強引だったかも知んないけど…それでも秀一がそんなに拒否してないってたのはなんとなく分かったし……俺も調子乗ってたのは認めるけど…なんであんなこと許したんだよ、あいつ。



一向に止みそうにないけたたましい心音。
俺達の関係は、これからどうなってしまうのだろう。



***



内心ドキドキしながら、今度は間違えないように無糖のままのコーヒーを持って部屋に入る。
いかにも悩んでます〜な表情の秀一の前にグラスをコトリと置けば、俺が戻ってきたのにも気付かなかったのか秀一はビクリと肩を揺らした。

「わり」
「いや、ありがと」
「ん」
「……。」

ちょ、この状況で無言とか堪えられないんですけど!!
緊張で手汗びっしょりになりながら、努めて明るく振る舞おうとスイッチを切り替えた瞬間、秀一の唇がゆっくりと開いた。

「お前……ゲイなのか?」
「な"っ……んー分っかんね。男好きになったのなんてお前が初めてだし、っつか好きな人ができたこと自体初めてだし」

直球で返ってきた言葉にそのまま直球で返す。

「初めてって……お前彼女いただろ」
「はっ…えっ…き…っ…えっ…!」
「気付かないわけないだろ、バカか」

狼狽えだす俺の目に映る秀一の顔は、どこか呆れたような…猜疑心たっぷりの表情だった。

「わりぃ、そっから説明さして」

バレてたのか。そうだよな、バレてないはずがない。

ばつ悪く両手を合わせて、渋々弁解の余地をくれた秀一にぴったり視線を合わせたまま、俺は全ての想いを吐露した。




「……そ、うか」
「うん。引いたっしょ?」

事の経緯を全部話すと、秀一はう〜んと顎に手を置いて何かを考え始めた。

「や……引かねぇよ、別に。でもお前のやったことに理解は出来ない」
「…う、ん」
「好きでもない人間と付き合うなんて、相手に悪いと思わないのか」
「あ〜……うん、まぁ。でも付き合ってから好きになるってのもアリっしょ?その子のこと好きになれたらお前とはそのままずっとダチでいれるわけじゃん。俺だって考えなしに誰とでも付き合ってたわけじゃねーよ?どーせ叶わないんならそっちの可能性に賭けた方が勝算はあるかな〜みたい……な……」

言いながら突き刺さるような視線を感じてそろりと秀一を見遣れば、何故か怒りに満ちたような親友の顔がそこにはあって、俺はそのまま口をつぐんだ。

「……〜っ、便所、貸して」
「あ?あぁ」

席を立つ秀一の後ろ姿を見送りながら、ふいに友情の切れ目を感じて……どうしようもなく胸をえぐられたような感覚になる。

秀一に、嫌われた……?


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