互いの利益のために2


和成が俺のことを好きだった、しかも結構前からで、中学時代俺に隠しながら何人かと付き合ってたのは俺への気持ちを吹っ切るためだったという。

動揺しないわけがない。急に今まで親友だった奴からそんな暴露されて、しかもそれはおおよそ普通の人生を送る男子高校生ならば直面しないようなことで。

俺はぐつぐつ煮えるように茹だった頭を冷やす為、そして自分の心に咲いたひとつの答えをごまかす為、何でもない風を装いながら部屋から出た。


「…くそ、あいつめ……」

便所を借りると言った手前そこに行かないわけにもいかず、とりあえず便座のカバーを下げてそこに腰をおろす。

和成のやつめ。
今日あんなことになっただけでも俺は正直いっぱいいっぱいで、和成の顔を見るのも恥ずかしいくらいだってのに……

エレベーターの中でのことは、あの和成のことだから本当にちょっとした冗談で、大した意味なんかないんだと思ってた。
あいつは昔から女にモテてたし中学の時に彼女が居たのも知ってたから、俺と違って“そういうコト”もし慣れてると思ってた。いやそれは今でも思ってるけど、だからなんとなく、気が向いたから、そこに居たのが俺だったから、女に飽きたから……あんなことをしたんだとばかり思ってた。

「……どうすりゃいいんだ…」

小声で呟いてため息をひとつ。
まだ整理が追い付いていない脳みそに喝を入れて、俺は立ち上がった。



* * *



「…よぉ、おかえり」
「……あぁ」

和成は複雑そうな顔を隠しきれずに、でも努めていつも通りに振る舞おうとしているのが分かった。

「和成、」
「ん?」

改めて向かいに座って、首を傾げながらこちらを見る親友をじっと見据えた。

「俺は…俺はさ……親友として、お前のことが好きだ」
「うん」

じわりと俯く。
和成は目を逸らすことなく、少しだけ柔らかい表情で真っ直ぐに俺を見ていた。そんな視線に、堪えられなくなって。
これから自分が紡ごうとしている言葉を考えると、まともに顔を上げられる自信がなかった。



「まぁ、相手がお前じゃなかったら……あんなことは絶対させないだろうな」
「……そっ、か」

言いながらちらりと和成を見ると、ぱちっと音を立てるかのように合わさる視線にどきりと胸が鳴る。

「…どんなカタチであれ、和成と離れんのは嫌だ」
「……おう」

「だから、……もっかいキスさせてくれないか」
「……え」

和成が固まったのが分かった。
一瞬確実に起動停止した和成は、戸惑うように瞳を揺らしたかと思えば次の瞬間、四つん這いになって軽やかに俺の傍らへとやってきた。

「なぁ秀一、なんでそんなこと言ってくれんの」

すぐ隣でテーブルに手をついた和成は下から俺を覗き込む。

「なんでって……確かめたい…から」
「何を確かめたいの」

間髪入れずに飛んでくる和成からの言葉にぐっ…と押し黙る。
そんなの口実だって、ただ遠回りなこと言ってオブラートに包んでるだけなんだって、こいつは気付いたんだろうから。



「ちょっとでも秀一の中に俺が付け入る隙があるってんなら、俺は遠慮しねーよ?」

そう言ってニッと笑った和成は、僅かに俯いて下を向く俺の顎に手を置いて顔をすっと近付け、「いい?」と囁く。

「…すっ…好きにしろよ……んっ!」

言い終わった瞬間唇を塞がれる。そのまま頭を抱え込むようにして深く唇を合わせられ、呼吸もままならない程にきつく求め合った。

気持ち良くて目眩がする。
と、いうか。
いくらあぁ言ったからって…こんな激しくされるなんて聞いてない。

「んっ……はっ…は……おまっ…」
「なーに?秀一クン」

濡れた唇を腕で隠しながら息を整えてギロリと和成を軽く睨むと、嬉しそうに口角を上げた奴はこつんと額を合わせてきた。

「やべぇ……好き。まじ好き。なぁ秀一……俺と付き合ってくれる?」

鼻と鼻がくっつく距離。
互いの息すら感じるこんな卑怯な距離で、こんな台詞。


俺は、

黙って……

ゆっくり、頷いた。



* * *



「なぁなぁ、お前あん時どー思ってた?っつかなんであんなことさせてくれたのよ」
「……言わせる気か?」
「ん〜そこは聞きたいっしょ!」

あれからなだれ込むようにベッドに移動した俺達は、健全な男子高校生らしく存分に互いの気持ちを確かめ合った。

壁際に設置されてるベッドに座って壁に背中を預けてほうけていると、俺の太ももに勝手に頭を乗り上げながら和成が楽しそうに笑った。

「言うかバカ」
「うわ!ひっで〜な〜。んまぁいいや。秀一のキモチはさっきじゅーぶん伝わったし!」

っな!と極上の笑みを向けられて顔が一気に熱くなる。
照れ隠しに和成の頬をぎゅっと摘んで、いででで!とわざとらしい声を上げるこいつの名前をそっと呼ぶ。

「ん?なーに」
「一回しか言わないからな」

ニヤニヤしながら見上げてくるその憎たらしくも愛おしい顔にキスを落として、俺は小さく愛の言葉を紡いだ。



---fin---




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