「……こ、これは……!」
突然だが、諸君はピンキーリングというものをご存知だろうか?
……ちなみに俺は全っ然知らなかったんだけど、今俺の目の前に展示されている小さな小さな指輪は、まさに優の為にあるようなデザインと言わざるを得ないだろう。うん、まぁ要するに一目惚れなんだけどね。
「こ、これ包んで戴けますか?」
「はいお客様!プレゼントですね!」
大切な恋人に指輪を贈る日が来るなんて…いや、贈ってもいい日が来るなんて思ってもみなかった。
しかし小学生である優にピンキーリングって大丈夫なのか?さすがに学校に付けては行かせられないけど、いやでも母さんとかにもバレたらあれだな……。ピンキーリングってもの自体をまず優が理解してないと意味ないし……でも優くらい頭の良い子ならすぐ分かってくれるだろうし……うん、大丈夫だろう!
「ではお会計19800円になりますー!」
そんなに高いものでもないけど…優は喜んでくれるよな?
* * *
「ぴんきーりんぐ?」
「そうだ優、なんでも幸せは右手の小指から入ってきて左手の小指から出ていくらしいから、左手の小指にそれをはめれば幸せをいっぱい溜めれるんだぞ!」
小さい小指にはめられたシンプルな指輪をじっと宝石でも見るようなキラキラした目で見つめたあと優の口から出て来た言葉は、俺の想像の斜め上をいくものだった。
「にぃ……」
「ん?」
「でもこれって、“自分には恋人がいないから小指にこれをはめています。薬指用の指輪をくれる恋人を募集中なんです”って意味もあるよね?」
「え"……?」
なななななんで優はそんなピンキーリングについて細かい事まで知ってるんだ最近の小学生はこんなの常識なのか?!っていうか俺はとんだ間違いを……
俺は自分の浅はかさに落胆しつつ、そして優の物知り具合に嬉しい気持ち反面困惑しながら、とりあえず財布を握りしめた。
「よしお兄ちゃん今からちょっと宝石店行ってくるな優薬指のサイズは俺リサーチの…」
慌ただしく連ねる俺の言葉は、とっさに掴まれた優の手の暖かさに驚いて途中で止まった。
俺の腕をぎゅっと握った優の手がぽわんと熱くて、思わず優の顔をぱっと見るとそこは少し赤くなっていて。
「な…ど、どうしたんだ優?」
「にぃ……ばか」
そう言って、まるで照れ隠しみたいに俺にぎゅっと抱き着いてくる優。
「ごめんね、ちょっとからかっただけ。指輪すごく嬉しいよ」
「優…」
俺の腹に顔を埋めた状態のくぐもった声が聞こえてくる。なんてお茶目さんなんだ優は!
優はそのままぐりぐりと顔を腹に押し付けて、それからゆっくりと顔を上げた。まだ少し赤く染まったままの可愛い顔がじっとこちらを見上げている。
こんな据え膳な表情を見せ付けられて食わないわけがない。俺はたまらず腰を屈めて、優の顎をくいっと引いた。
「んっ……」
ついばむような軽いキスを何度も、何度も。角度を変えてちゅ、ちゅと一回一回のそれを大切に扱うようにそっと丁寧な口づけをした。
「優…いつか絶対この指用の、買ってやるからな」
優の左手の薬指を壊れ物を触る手つきで持ち、さすさすと撫でながらそう言えば、優は「じゃあそれまでは小指で我慢してあげる」なんて悪戯に笑った。
「優……やっぱり今すぐにでも」
「にぃ、いいの!僕は今日にぃがこれをくれたことが嬉しいんだからっ」
にこりと左手の小指を掲げる優の顔があまりに幸せそうに見えたから、俺もつられて頬を緩めながら財布をもう一度テーブルに置いたのだった。
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