キタコレ文化祭01
俺は今世紀最大の危機を救うことに成功した。
それは恋人である横田と、何よりも自分自身に関わる重大な危機――
実は来月に迫る文化祭の出し物が女装喫茶に決定し、衣装の予算の関係で女装する男子の選抜を行っていたところ、(俺の)横田がまさかの選抜入りしてしまったのだ。しかもかなりの票を集めて。
まぁそりゃあ当然の結果だと思うよ?俺も。
でも、でも…!!
女装なんかさせたら絶対とんでもないことになる。主に俺の下半身が。
文化祭に事欠いて俺の股間もお祭り騒ぎじゃあ笑い話にもならない。
なにより、女装プレイもまだしてないのに学校行事なんかで先にさせてたまるか!
っということで、わりと発言力の高い山下を中心にマックをダシにした賄賂めいた取引の末に、『横田が女装しても面白みに欠ける』というもっともらしいスローガンを掲げて猛抗議し、無事に横田の危機は免れたのだった。回想おわり。――
安堵のあまり机の下で小さく握りこぶしを作っていたら、よこたんからLINEでネコのジト目みたいなスタンプが送られてきて、思わず大袈裟に振り向いて横田の様子を確認する。
「高木ぃ、お前なに堂々と携帯いじりながらよそ見してんだぁ?」
「っ、す、すません…」
ドッと沸く教室をよそに、そして教師の睨みをも受け流し、俺の心は今日も愛するよこたんでうめつくされていることを実感した。
「だから前向け高木ぃ!」
キタコレ文化祭
「高木!写メらして!」
「んあ?あいよ」
ドンキで買ったなんちゃってセーラーに身を包み膝上のスカートを翻して、ゲラゲラと笑っている友人に向かってピースをする。
「さんきゅ!ツイッタ拡散しとくわ」
「やめろっつの〜それより女装喫茶来いよ!」
今日何度目になるかわからない似たようなやり取りを交わし、胸に下げたお手製のダンボールプレートで宣伝係を全うしながら廊下を闊歩する。
いやー。それにしてもこのセーラー服、よこたんに着させなくてやっぱ正解だわ。
だってすげー割合でスカートめくられるもん。あっちでペロリ、こっちでペロリ。童心に返ったかのように皆ペロペロしてきやがる。
さすがに女物の下着なんか穿いてるわけじゃないけど、スカートをめくられて股間が外気に晒される気分はどうにも落ち着かない。
この対象が横田だったらと考えるだけで……嫉妬と興奮で股間が爆発しちゃいそうだ。
「っと、やべやべ」
若干の前屈みになりながら教室に戻ると、窓際の隅で一人佇む愛しい横田の姿が目に入った。
「よーこーた」
「っ!」
うちの組の女装喫茶はかなり盛況で賑わってるというのに、横田の顔は何やら冴えない。
「どした?気分悪い?よこたん人混み苦手なタイプだもんな〜ほら、一緒保健室行こうぜ?」
伸ばした手を一瞥し、横田はふるふると首を振る。
あれ。もしや女装姿の俺があんまりにも気持ち悪いんで、知り合いだと周りにバレたくないとかそーいうアレだろうか。えっと、一応クラスメイトなんだけども。
「?マジどした?横田?」
「た、たか…」
「おーい高木ぃ!オメー教室戻ってんならサボってないで手伝えよー!」
横田が何か言いかけたその瞬間、空気の読めない山下が檄を飛ばしてくる。
心の中で舌打ちをして声のした方に目をやると、山下の隣に居た学級委員長がそのまま視線だけで『手・伝・え』と命令してきた。
「ごめん横田……あとで絶対話そーな?」
両手を合わせてから踵を返す。
俺の背中を見つめる横田がどんな表情をしていたのか、俺には見えるはずもなかった。
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