第40話




「俺…実はあの時、ちょっと高木にドキドキしてた」

――今俺は夢を見ているんだろうか。横田くんが俺にドキドキしたとか…そんな夢物語が現実にあるわけないもんな、そうだよな。

「……聞いてる?」

壁に寄り掛かるように立つ俺の目と鼻の先にいる横田は、俺の上着をちょいっと引っ張って両足の間に足を入れるように迫りながら上目にこちらを見上げてくる。わ、近…っつかこの体勢は色々とまずい……

「おう聞いてる聞いてる、つか横田くん、」
「なに」
「近いんだけど…」

カアァと顔が赤くなるのを感じながら、ここが暗い路地裏でよかったと心の片隅で安心する。

「高木、いや?」

嫌なわけないだろ。
でもそう答えるのも変だよな。
――そう思っていたら、なんと横田は挑むような顔付きで腹をぴたりと密着させてくる。な、なんなんだ横田くん。俺を弄ぶ気か。こんな体勢心臓が持たない。

「なっ…」
「俺さ、今すごいドキドキしてる」

そうやって今度は腹から胸までぴっとりくっつけてきた横田は、俺の肩に顎を乗せて分かる?と耳元で囁く。

「うっ…、わ、分かる、よ」

ふぅん、と耳元で言う横田の息が直接耳に当たって、くすぐったさよりも興奮とか劣情みたいな色欲がどんどん迫り上がってしまう。絶対横田より俺の方が何倍もドキドキしてる。分からないか?横田。俺のノミのような心臓は既に限界値を越えてるぞ。

つか…かっ、顔が近過ぎて…体も密着してるし、こんな夜の路地裏でこんな…こんなの、あの時のことを思い出さずにはいられないじゃないか。どうしてくれるんだ横田くん。

つか急になんなんだ横田くん。今俺達大事なお話してたんじゃないのか。いいのかこれ。
…とかいいながらこの雰囲気を壊してしまいそうでじっと身動き出来ないでいると、横田は急にすっと顔を離して俺と向かい合う。だから顔近っ…




「…………好き、かも」

蚊の鳴くような声で横田はそう言ったきりくるりと後ろを向いて、ロボットが起動停止するようにぎこちなくその場にしゃがみ込んだ。

ってえ…いま、横田…え、何て…?

横田が俺を好き…?

耳を疑うような言葉。
信じれるわけがない。
でも横田は嘘をついたり冗談を言ったりするタイプではない。…ましてやこんな状況で。

一気に眼下に居るこのふわふわした我が想い人を抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
心臓があまりにもばくばくと煩くて、これそのうちマジで心臓爆発すんじゃないかなと心配になった。
頭ん中にぐるぐるとさっきの横田の言葉が巡って、巡って、巡って…。よく分からなくなった。

「よ、よこた」

おずおずそう言いながら中腰になって横田の肩にぽんと手を置く。一瞬びくりと震えた横田は、「ごめん気持ち悪いよね」なんて馬鹿げたことを呟いた。

俺の知っている横田は、間違ってもこんな女々しい言葉を使ったりしない。ましてやこんな…膝に顔を埋めて隠すとか、あからさまな態度をとったりもしない。

…ってことはあれか。まじなのか。横田くん、さっきの言葉はまじなのですか…!

もう一度横田の姿を確認して改めて事の重大さを理解した途端、急にぶわっと体内が熱くなった。体中の器官が暴走してるみたいにヒートアップして、心臓が今までにないくらいばくばくと音を立てて…。ま、まじで横田が俺のこと……

いつから?
最初から?…最初って何だ。
修学旅行の夜、あんなことになったのは偶然じゃなかったのか…?いやいやそれは自惚れ過ぎってもんか。
じゃあ二日目の夜のキスは?あれも偶然同じ布団に潜り込んだ相手がもし俺じゃなかったら…そしたら横田、お前はキスなんてしなかったってことか?
相手が俺だったから、だからあんな展開になったと思っていいの?



足の中に顔を埋めている横田の前に回り込んで、正面から両肩をガシッと持つ。
それでも一向に顔を上げてくれない横田の頭に、軽い頭突きをくらわしてみる。

「…っ、」

頭をさすりながらゆっくり持ち上げられた横田の顔は、暗がりでもはっきり分かるくらいに赤かった。
うあぁ、やばい。こんな反応されたらもう……

「横田…ってちょ、顔下げないで、こっち見て」

目が合った途端にまたずるずる下がってしまう横田の頭。あぁなんだ、この可愛い生き物は。やばい。やばすぎる。もう好き過ぎて、胸がいっぱい過ぎて…頭がおかしくなりそうだ。
まさか俺が同じ気持ち――いやそれ以上に横田が好きだなんて、微塵も思っちゃいないんだろう。

「よーこーたーくーん」

ちょっと軽いノリで名前を呼んでみても、やっぱり顔は膝に埋もれたままで。

「………っ、」

だから、耳元に口を寄せて「俺もお前のこと好き過ぎて困ってんだけど」と囁いてみる。

「えっ」

咄嗟に上げられた横田の唇を、

「……!」

奪ってしまった。


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