第39話




まさかそうくるとは思わなかった。実に予想の斜め上をいく奴だな横田くんは……

「カノジョはカノジョだろ?お前の」
「え、俺?」

まるで心当たりありませんみたいな顔で見つめられた。ん?どういうことだ?

「お前以外の誰のカノジョだよ?」
「……?」

横田はさっきよりも心当たりのなさそうな顔でやる気のない目をぱちくりさせる。

「なに、まだ俺にはちゃんと話してくんねーの?そんなに俺って、」
「高木」

また眉間に皴を寄せだした俺の言葉を横田は珍しく遮って、それから何故か足を一歩前に出して、そして何故か俺の方にぐいぐい迫って来ながら「…っあー……だめだ」とぶっきらぼうに零す。

ななななな何だ意味分からん。
急に縮まった互いの距離に、横田の切なげに見えなくもない瞳に、横田の意味不明な発言と行動に、無性に胸がぎゅーっと握り潰されるような感覚になる。

「…もう耐えられないんだけど」

至近距離でぼそりと呟いた横田は、俺にそろりと両手を伸ばして、

「いっ…いたたた!」

両頬をぐいっと摘んで引っ張ってきた。条件反射で眉間に皴を寄せながら若干の痛みに顔を歪めていると、

「なんか高木と変な感じになるのやだ」

ぱっと手を離して、しょんぼり犬耳が垂れ下がるかのようにそう零す。そんな横田があまりに可愛くて、どうしようかと思った。俺、悶え死ねるかも知れない。

「…こうなったらもう全部言うけど、」

いい?って聞かれたから、頬をさすりながらいいよって答えた。横田の口からどんな言葉が出てくるのか想像もつかないけど、何であれ口数の少ない横田が全部話してくれるってんなら聞く。聞きたい。それがどんな言葉だとしても。
ごくりと生唾を飲んで、おそるおそる横田を見つめた。


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