第36話
んー……………。
こない。
一向に連絡がこねぇ。
もう午後5時回ってんだけどな横田くん。ちょっと遅過ぎるんじゃあないかな横田くん。いくら君が人よりもマイペースな自由人だといえど、これはさすがに……
「あ、」
世界の中心が横田で回っている俺とはいえさすがに痺れをきらして電話を掛けようかと携帯を握った瞬間、横田からの着信が鳴り響いた。
「遅い」
『寝てた……』
「まじか」
『……ごめん』
ん、まぁいいけど、と思っていたよりふて腐れな声色が出て驚いた。
『じゃ、後で』
横田らしい、あまりに素っ気なさすぎる返答で通話が切れる。まぁこんなのもいつものことだし?いーんだけど、さ。
――午後5時40分。打ち上げの待ち合わせ場所である某カラオケ店の前で俺は、両手の平をひたすらに擦り合わせて秋の肌寒い風を感じていた。
「来ねぇよおい…」
てっきりさっきの電話は、じゃあ今からすぐ行くから打ち上げの前にちょっと話そうって意味だとばかり思ってたんだけど。何だこれ。なんか俺バカみてーじゃん。いやバカなのか。ドンマイ俺。
「あ」
自分の空回り具合にほとほと愛想を尽かしていると、聞き慣れた声が後ろから降ってきてどくりと胸が跳ねる。
「あ、じゃねーよ!って、」
くるっと後ろを振り返りながら、横田に腹パンでもお見舞いしようかと思っていたその時。
横田の後ろからひょっこりと見たくもない顔が出てきて、げんなりとため息をつく。
「やっほー!高木来んの早くね?もうお前どんだけ楽しみしてたんだよーこのっこのっ」
俺と横田の間に割って入ってくる山下は、蛍光色のパーカを羽織っていつもよりバカさ加減が三割増しでとにかく超絶うぜぇ。このっとか言いながら肘で腕を押してくるあたり本当いい加減にして欲しい。
「…あ、…さっきそこで会って、」
曲がり角の辺りを指差しながら俺にぼそぼそとそんなことを言う横田は、何故か俺と目を合わせようとせず少し俯きながら伸ばした指をすぐに引っ込める。
あーなんかすっげぇむしゃくしゃする。俺との約束すっ飛ばして眠りこけてたくせに山下と同伴出勤こいてんじゃねーよ。つかちょっとは早く来ようとかねーのかよ。俺のことなんて本当どうでもいいんだなお前は。修学旅行であんな…あんなことして俺の気持ち掻き乱しまくったくせに。このままみんなとカラオケで酒飲んであんな姿を晒す気なのか?それでいいのか?横田…
話したいのに、問い質したいのに、山下は隣にいるわ遠くから歩いてくる他のメンバーの姿は見えるわで、絶対これ今そんな話出来ない感じじゃんもう。なんだよこれ。っあー…もう…っ…!
「わり、ちょっと俺ら遅れるわ」
気付けば俺はがしりと横田の手首を掴んで、えらく驚いた顔をする山下にそう言いながら逃げるようにその場を去っていた。
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