第35話
「は……え、まじ?」
『マジマジ大マジだっつの!だから昨日電話したのにさ〜高木出ない率高すぎ!』
次の日の朝、またもや山下からの鬼電攻撃を喰らった俺は仕方なく山下に電話をかけ直すことにした。
「え、まじか」
『だからマジだって!』
山下の声が遠くに聞こえる。耳に当たるひんやりとした携帯の感触すら耳障りで鬱陶しくて堪らない。
横田が参加……
って、え、まじ…?
横田お前分かってんの?今日の打ち上げは飲みなんだぞ?お酒飲むんだぞ?横田酒入ったら勃起収まんなくなっちゃうんじゃないの?そんな姿ほかの奴等に見せていいの?それが嫌だから今まで飲みの誘い断ってたんじゃなかったのか?カノジョも出来たしもうどうでもいいって事?…あぁ、だからあん時俺にも………
『おーい!聞いてんの?!』
「っあぁ聞いてる聞いてる」
電話口に響く山下のバカでかい声で意識を現実に引っ張り戻された。
そのあとは放心状態のまま適当に山下との電話を切って、速攻で風呂に入って、気付けばワックスの蓋をくりくり開けながら片手であいつの番号をプッシュしていた。なんかもう無意識で、何も深い事なんか考えずに。
――プルルル、プルルル、
何回コールの音が鳴っても横田は電話に出ない。仕方なしに携帯をベッドに投げ付けて、髪の毛をテキトーにセットして、心を落ち着かせるように深呼吸した。
「っはぁ…」
なんだろう…大事なことはいつも山下伝いに聞くとか腑に落ちねぇな。
むしゃくしゃするままにセットしたばっかの髪をがしがし掻いて、ベッドを漁って携帯をもう一度引っ張りだす。
「っうお」
途端に携帯のバイブがウーっと鳴り出して、ピンク色の着信ランプがぴかぴか光った。この色は横田専用で登録していたものだつまり、横田からの着信。
途端に心臓がさっきの三倍の速度で血液を送りだす。やべ、緊張してきた。
「もし」
『あ、電話した?』
俺の緊張具合を知ってか知らずか、素っ気ないというか普段通りというか、単調な横田の声がすっと耳に届く。
「あーうん。…あのさ、ちょっと今から出てこれる?聞きたいことあんだけど」
俺の問いに暫く間を置いたあと、電話の向こうから「うん」とだけ返ってくる。
「じゃ支度出来たらメールして」
分かった、じゃ後で、と抑揚のない声と共に電話が切られる。『通話を終了しました』という携帯の画面とツー、ツーという機械音の虚しさダブルパンチを喰らいながら、ふぅ、と胸を撫で下ろす。
時刻は午後2時を回ったところ。横田は基本マイペースな人間だから、メールがくる頃には外は薄暗くなってるだろう。…まぁいいんだけど。
打ち上げの待ち合わせ時間はたしか6時だったかな…。それまでに間に合えばいいけどなんて考えながら、気持ちが落ち着かずに俺はずっと携帯とにらめっこをかましていた。
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