第33話




「たかぎ」

横田の声が、遥か彼方から聞こえてるように感じた。なんだろう…遠い。そうだ、横田が遠いんだ。

好きな人と修学旅行のテンションにかまけてあんなことになって、この先の友人関係云々の不安とかも確かにあったけど、それより何より率直に嬉しいというのが本音だった。
修学旅行だったからとか酒が入ってたからとか理由はあっても、横田とあんなことをした相手が他の誰でもない自分だという事実が素直に嬉しかった。…嬉しかったんだ。

そもそも横田とキスとか…まぁ色々…あんなこと出来るなんて思ってもみなかったんだし、もうこの先一生味わえない体験が出来たってことで喜ぶべきところなんだろう。ここはすっぱり流すべきなんだろう。横田への気持ちを割り切って。

横田にしたらちょっとした悪戯心みたいなもんで、大した出来事じゃなかったんだから。

「……」

頭ん中がぐるぐると同じようなことばっか巡ってて収拾がつかない。何を考えてもどう思考をこらしても、最終的にいきつくところは同じで。

――横田にしてみれば、大した出来事な訳ないんだ。大切なカノジョがいるんだから。







「高木、そんな嫌…だった?」

ふいにそう言われて、どっかにすっとんでいた意識がふっと我に返る。

「いやまぁ、そりゃあ」

そりゃあ嫌だろ。山下には相談してるくせに俺にはカノジョのこと秘密にしてるなんて。嫌に決まってる。

「ごめん」

その言葉が痛い。謝られる度に胸がズキリと重くなっていく。なんで謝るんだ。しかもなんかこんなシリアスムード全開で。

―キィ……

漂っていた変な沈黙が、また横田の踏み出したブランコの音で遮られる。静かな公園にブランコのキィキィという音だけが虚しく響いていた。

っあーもうどうしたらいいか分かんねぇ。いい加減この変な空気をやめにしたい。
なんかもうこのままじゃ、変な感じで俺達二度と元に戻れない気がする。

……ってもしかして、俺がいつまでも怒ってるのがいけないんじゃね?
そうだ。横田への気持ちを隠すと決めている以上、横田とはずっと親友というポジションを崩さないと決めている以上、ここでこうやっていつまでも俺が不貞腐れな態度をとってるのがいけないんだ。

普通に考えたら親友にカノジョが出来ておめでとうとか言う場面のはずだろ。まぁ何も聞かされてなかった件は甚だまだ不満だけど、それだってさっき横田謝ってたじゃんか。なのにいつまでも女々しく考えてる俺が悪い。うん、俺が悪い。



やっと気付いた俺は、あくまで自然に見えるようにゆっくりと横田の隣に移動した。
同じように俺もブランコを少しだけ揺らして、こちらを不思議そうに見遣る横田に視線を合わせた。

「……?」

目が合った途端驚いたような顔をされたから、至極優しい眼差しになるように笑顔を作った。

「うん、まぁ、あれだなあれ。うん」

でもおめでとう、とはやっぱり言えなくて。どんだけ国語弱いんだって位しどろもどろで言葉にすらなってない単語の羅列を並べてやることしか出来なかったんだけど。

「…高木」
「ん?」

まごつきながらも横田は続ける。

「……あ…りがと」

そう言うとスタリと立ち上がり、「…じゃ、また」とだけ残して歩きだそうとする。
追い掛けようかと思ったけど、追い掛けたところで何て言ったらいいのか分からなくて。

俺は「おう」と心ない返事だけをして、どんどん遠くなっていく横田の細い背中をただ見つめていた。


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