第32話




秋真っ盛り、というかもしかしたら冬の訪れも近いかもしれないと思うくらいに、乾いた冷たい風が吹いていた。
ひゅうおぉとそこそこに勢いの良い風が、俺の前髪を好き放題散らかしては消えていく。できることなら俺もこの風に乗って消え去ってしまいたい。

頭ん中ぐっちゃぐちゃなままで、もういっそ吐きそうな位気持ち悪い緊張感の中、俺は今学校からほどほどに近い距離にある公園のブランコの柱に寄り掛かっていたりする。

――キィ、キィ。

そのすぐ眼下にあるブランコにちょこんと座り、足の届く範囲でその小さな板を揺らしているのは勿論、横田。

「……え…っと、」

ぎゅ、と踏み締めた足でブランコを止めてこちらを見上げる横田。
そんな可愛い顔して…上目遣いで見つめる相手が違うんじゃないか横田。カノジョがいるんなら、修学旅行が終わって真っ先に会いに行くのはカノジョの元だろう?

ゆっくりと横田を見下ろして、その瞳に映る自分の情けない程に覇気のない顔を確認してはハァと息をついた。

「な…んだよ」
「えっと………」

ぼそりと聞けば、やたら言いにくそうにまごつきながら頭をかく横田。

そりゃあそうだろう。カノジョの存在を俺には言ってなくて、山下には相談してたんだもんな。
俺、自意識過剰とかかも知んないけどぶっちゃけ山下より俺の方が横田と仲良いと思ってた。むしろ横田の一番の親友は自分ぐらいに思ってたとこあったし…。
それがなんだ、こんな大事なことを俺には一言も教えてくれないんだもんな。うん。今更なんか言いづらいよな。

「高木…」
「ん?」
「高木…って…、ス…キ………の?」

え?何ごめん聞こえなかった。スキー行きたいの?とかか。こんな時にそんな話しなくてもいいだろうに。もう冬休みの予定立てるつもりか横田くん。つかスキーとかカノジョと行った方がいいんじゃないかな横田くん。

「え、何もっかい言って」
「あっ…えっ……」

なんかもうこのはっきりしない横田にも、むしゃくしゃしまくっている自分にも腹が立って。

「つかさ、横田」

腕を組みながら横田を見る。……多分今俺すげーむすっとしてる。この苛立ちを隠せる程寛大な心なんか持ち合わせてないっつの。
無言でこちらを見つめるやる気のないその目は、心なしか元気がないようにみえなくもない。

「…カノジョ、いたんだな」
「えっ、あ…違、」

違、って何だよ違うのかよ。違うならなんで山下はお前にあんな事聞いてくんだよおかしいだろ。

「…なに、そんで」
「ごめん」

ごめんて何。
カノジョいるの秘密にしててごめん?それともカノジョいるのにあんなことしてごめん?
――あぁ、両方か。

「あー……う、ん」

やばい。泣きそうだ。
涙腺がみるみるうちに崩壊していくのを必死に堪えながら、努めて平気な、何でもないフリをした。

「……怒ってる?」

なんとなく不安気な眼差しが下から注がれているのには気付いていたけれど。

「怒ってねーよ?」

気付かない振りをして、公園の真ん中に立っている時計塔の辺りをぼーっと眺めていた。そこらに在る電灯が明るい光を燈していて、それに群がる蛾達の様子を放心状態で視界に入れた。


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