第29話




例えば、例えばだ。
今まで普通に友達だった奴と、酒の勢いでちんこ見せ合うことになっちゃったとしよう。
例えばその相手が山下だったとして、いや万に一つもそんな出来事はあって欲しくないけど、もし、もしそんなことが起きたとして。
俺は次の日普通に山下と話せるか?

……ん……いや、話せるな。うん。普通に話せるし、話さない理由がない。ちょっとこっ恥ずかしい気もするけど、んまぁどうでもいいな、うん。

んで、例えば。
その次の日に山下と偶然一つの布団に潜らなければならないような事態が起きて、いや万に一つもそんな出来事あって欲しくないけど、もし、もしそんなことが起きたとして、偶然すげーお互いの顔が近くにあって、なんか魔が差してその気になっちゃったとして、お互いそんな感じの雰囲気に流されて、キ…ス………。

…………気持ち悪い。うん。気持ち悪いな、山下とキスとかちょっと考えらんねえ。

…でも、そんな事を俺と横田はしちゃったわけで。
改めてそう考えるとすげー事したんだと実感する。と同時に後悔もしてるけど。わりと本気で。

俺は横田をそういう意味で好きだから、実際昨日起きたあんなことやこんなこともさっきのキスも全て俺にとっては幸せこの上ない出来事だけど、横田にとってみたら悪夢そのものな出来事だったんだろうな、どう考えても。



薄い布団に包まって天井を見つめながら、蛙の合唱みたいにガーガー聞こえてくる耳障りないびきの声を遠くの方で感じつつ、一向に眠れそうもない自分を戒めるように頬を抓(つね)った。これでもかってくらい強く抓ってみても、痛みなんか感じなくて。それより何より、この胸のモヤモヤチクチクする鈍い痛みのが全然痛くて。

横田の気持ちが知りたい。
真意を問い質したい。
そもそもあれから横田と全然まともに話せてない。話したい。
横田、横田、横田。
頭ん中お前でいっぱい過ぎてどうしようもねぇよ。

「……はぁ」

つか、俺一人で考え込んでたってどうしようもないよな。結局のところ横田と話さないと何も始まらない。いや何かを始めたいとかじゃないけど、このままじゃ終わらせることもできやしないんだ。
……訂正しよう。出来ることなら横田くんと何かを始めたいです。そりゃあまぁ、そう思うのは当然だよな。
“欲”ってのは本当に凄まじい。

今まで…この修学旅行が始まる前までに俺が一人で描いてきた夢はもう叶ってしまったわけで。
本当に、本当に夢みたいなんだけど、横田の裸を見たり、横田とエッチなことしちゃったり、横田とキス…したり。本当…に、しちゃったんだなあ……

「……」

ぼおぉっと、まるで走馬灯でも見るかのようにそんな考えを巡らせながら、頭の後ろで手を組んで天井をもう一度見上げた。



そんな時、キィ…と無機物的な音と共にうっすらと部屋に光が射した。
何事かと思ってドアの方に目をやれば、横田が携帯片手にそそくさと部屋から出ようとするところだった。


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