第28話
初めて触れた横田の唇は想像の通り薄くて、驚いたのは思っていたよりも熱くて…しっとりと濡れていたことだった。
あとすっ…げぇ良い匂いしたな。思い出しただけでムラムラする。
「……」
明々(あかあか)と点けられた蛍光灯の光りの中、俺と横田はお互いに顔を赤くしながらも上手く言葉を交わせずにいた。
「お前ら、顔赤すぎじゃね?」
空気を読むということを知らない山下が、すかさず俺達を交互に見比べてはそんなことを言う。バカ班長。黙りやがれ。
「なぁなぁ、顔赤くね?」
二人揃って空気の読めない班長の質問に応えられないでいると、「おいおいどうしたんだよマジで」と山下はぐいぐい食い下がってくる。頼むから放っておいてくれ。
「や、別に」
「はああぁ?!何かっこつけてんの!うける」
やっと出た言葉が『別に』っていう俺もどうかとは思うが、ケラケラ腹を抱えて笑い出す山下も山下だ。こいつ本当どうにかしてくれ。
どうしても気になってみんなの目を盗むようにチラリと横田を見てみれば、普段より3割増しの能面っぷりで横田くんは固まっていた。何を考えてるかなんてまるで読めねぇ。
本当に仮面を引っ付けたみたいに無表情な横田は、さっきのキ……スのこと…どう思っているんだろう。前髪で隠れて少ししか見えないけれど、その無表情はどういう意味なんだろう。つかなんで横田ってここまで表情に乏しいんだよ。
あー…分っかんね。
後ろ頭をがしがしと掻いて、もう一度だけ横田を視界に入れてみる。今度は周りの目なんか気にせずに『今オレ横田見てんよ』オーラをびしばし発しながら。
「……」
伏し目がちだったそこがゆるりと上を向いて、かと思えばふらふらと視線が泳ぎだす。俺からの視線に気付いたのか気付いてないのか、そのまま部屋の壁をじーっと眺めた後に、やっとその視線はこちらに向いた。
「……!」
あっれ、その反応。俺のラブ光線は残念ながらたった今届いたようだ。
横田は俺と目が合うなりギョッとしたように眉を上げて、それからぎこちなく目を逸らした。
「…んーまぁいっか!なんだかんだもうこんな時間だし、そろそろマジで寝んべ!」
ひとしきり笑い終わって気が済んだご様子の班長の一声で、今度こそ本当の意味で電気が消される。
「…………おやすみ、高木」
肩を落とし仕方なく自分の布団へ行こうとした矢先聞こえた横田の声の所為で、余計に眠れなくなりそうになったのは言うまでもない。
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