第26話
「――っ!」
心臓が止まるかと思った。
そしてすぐにドクドクと暴れだすこの心臓が苦しすぎて、一瞬止まっていた息をはあぁと吐き出す。
「……あ、」
と小声で言った主は横田。
何ていう奇跡。
動揺のせいで顔が熱い。頭も見る間にぽわわんと熱くうだってきて、この暑さは布団に潜っているからだけではないと確信する。
至近距離で交わっているであろう視線。布団の中は真っ暗で、まだ目もその暗さに慣れきってはいないのにはっきりと分かる横田の存在。
俺がちょっと動けばすぐに触れてしまいそうなこの距離。つか触れてる。触れてるよ足が!横田のおみ足が俺の足にコツンと当たった。
「……っ」
思わずごくりと生唾を飲み込む。すごく自然な流れで俺の股間はいとも簡単にテントを張ってしまう。健全で不健全な男子高校生だもの。好きな人と布団に隠れるなんてこんなイベント、何かを期待してしまうのも仕方ないだろう。
「おらー!お前ら寝た振りすんなー?」
そんな折、おそらく勢いよくバーン!と開け放たれたドアからズカズカと担任が歩いてきて、揃いも揃って狸寝入りをかましている俺達の布団のちょーど真ん中あたりでその腰を下ろした。
「…チッ。分かってんだよ、つーか布団に隠れるとかわざとらしすぎんだろお前ら……」
果てしなく面倒くさそうに呟いた担任は、重いため息を一つ吐いてからこう続けた。
「お前らが本当に眠るか、起きてきて謝るかするまで俺ぁここに居るからな!」
うえぇ〜…。まじか。
――今この状況は、とんでもないスリルに満ち溢れている。
一つ。騒いでいたところに先生がやってきて隠れてやり過ごす為に潜り込んだ布団の先には横田が居たというトンデモ展開。
二つ。普通ならここで担任はすんなり「早く寝ろよ」とか言って部屋を後にするのが定説なはずだが、まさかのずっと居座る宣言。
ここでの判断が非常に重要なのは言うまでもないが、俺的にはもちろん、皆でこのまま寝た振りを続けて俺は夢のようなこの空間を少しでも長く味わっていたい。うん。
とは言ってもこればっかりはみんなの流れに任すしかない。
どき、どき、どき。
見事に心臓がばくばくと音を立てていて、ついでに股間も「呼んだ?」とばかり反応してしまっている。
すぐそこにいる横田にバレてやしないだろうか。
この心臓の音が。
この股間の膨みが。
昨日の夜あんなことがあった後なのに、否が応でも昨日のことを思い出しちゃうじゃんか。
……なあ、横田?
お前、何思ってんの?
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