第20話
「いただきまー…え?!」
まぁそんなこんなで、俺がメシをよそい終わり横田が味噌汁をそっと俺の斜め前に置いて、両手をぱちんと合わせたところで、大広間の入口から聞こえてきた声に自分の耳を疑った。
「なっ…!お、お前ら…!」
大きくカパッと開かれたドアの前に立っていた4人組。そいつらは俺と横田は特によーく見知っている顔で、本来同じテーブルで朝食を食べているはずなのに、誰かさんが腐ったケーキを食べさせた所為で修学旅行1日目欠席を余儀なくされてしまった可哀相な4人衆なのだ。
「可哀相な4人衆なのだ。じゃねーよ高木!」
「え?心の声出てた?」
ずかずかと俺と横田の間に割り込んで座り「ばーか」と頭をはたいてきたのは山下。俺等の班の班長。
「……みんな」
「お!よこたーん!俺ら揃って腹下しててさー!昨日は高木と二人で大丈夫だったかー?」
山下は明るくて、俺達にとっちゃムードメーカー的な存在で、でも少しだけうざいというかしつこいというか空気を読まないというか、あんまり物事を深く考えずに行動するタイプだ。
横田の頭をわしゃわしゃと崩しながらニカッと歯を見せて笑うその姿は、爽やかバカという言葉を絵に書いたようだった。
…つか、俺と二人で大丈夫だったかって何だよ。何の心配してんだよ。いやまぁ確かに色々あったんだけどさ……
「あ、え…あぁ、うん」
ってちょちょちょ、横田くんの反応が!
完全に俺と二人で大丈夫じゃなかった感丸出しなんだけどこれ。そういや横田くん、嘘とか付けないタイプだったな…。そういうとこも含めて好きだ。横田くん好き。
チラっとさりげなく、あくまでさりげなく隣を見てみれば、横田の目には明らかに動揺の二文字が浮かんでいて、「なんだなんだぁ〜?」と茶化す山下を受け流すこともせずに、味噌汁をずずーっと音を立てて啜っていた。
「おふ……っ、つか班長〜!お前のせいでオレ昨日班長会議とかだるかったんですけど!」
だから仕方なく俺は、山下の分の茶碗をだだんと机に置きながら無理矢理話題を変えざるを得なかった。
まぁそんな躍起になんなくても普通に大丈夫だとは思うんだけどさ。まさか俺と横田の間に昨日あんなことが起きてて、今ちょっと気まずいとか誰も思い付かないだろうし。
「ははっ、高木も大変だったな、班長会議お疲れさん」
そして綺麗に揃った白い歯を出しながらバシバシ背中を叩いてくる山下に、ちょっとしたうざさと共に途端に罪悪感がぶわわっと湧き出てきた。
「まぁ……悪かったよ」
あさっての方向を見ながらぼそりと呟いてみた。
「え?なんでそこで高木が謝んの?」
ぽかんと頭に?マークを付けながら首を傾げる山下。お前…あん時、俺だけがあの腐ったケーキに手を付けなかったことに気付いてなかったのかよ。
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