第19話
「……。」
一階の大広間で、みんな集まっての朝食。各班一つずつに小さなお櫃(ひつ)があって、一人一つずつ小さな網とコンロみたいなのがあって。
とにかくすげー豪華な朝飯に本来ならめっちゃテンション上がるはずなのに、横田の分のメシをよそいながら俺の心は世界の終わりかっていうくらいに沈んでいた。
チラリと目の端でその原因である人を盗み見れば、…いや盗み見たはずなのに、横田のぼんやりした瞳はなぜか真っ直ぐにこちらを捉えていて、ばちりと視線が重なってしまった。
そして、合ったと思ったらすぐに逸らされる。俯いた横田の横顔は少し赤く見えて、少し揺れた髪の毛がふわふわで綺麗だった。
いつもなら、「えー!ななななーんで横田くんこっち見てんの!え、なに!両想い?!なになに両想いコレ〜?!」ぐらいにはポジティブに考えられてたと思うけど、そうはイカのキンタマだ。
そんな都合よく解釈出来るわけがない。
――昨晩はそのふわふわの髪に触れて、更にもっと下の毛にも触れることが許されて。茂みの中に立派に生えていた横田のソレを握って、扱いて。
横田の火照った顔、虚ろで煽情的な目、漏れる吐息、厭らしい音、溢れる透明な糸。
思い返しただけで勃起してしまうそれらの思い出は、きっと横田にとっては黒歴史でしかないんだろう。
「…な、なぁ横田」
茶碗を置いて、恐る恐る声を掛けてみた。
「……?」
無言でゆっくりと横田の顔がこちらに向く。率直に、なんか犬みたいだなとか思って可愛いなと思ってしまう。
「あー…や、何でもない」
可愛い。好きだ。
横田が好き過ぎて、横田とこうして見つめ合うだけで胸が締め付けられるようで。
普段でもデフォルトで表情が乏しい横田は、今そのふわふわの頭の中で一体何を考えているんだろうか。脳みそほじくり出して見たいくらい気になる。
俺と気まずい?
友達やめようとか考えてる?
…昨晩の事、後悔してる?
どれも当たってんだろうな、多分。
でも怖くて聞けない。何をどう、どこから聞いたらいいのか分からない。
ふぅ、と無意識にため息をついた。
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