第10話
「あのさ…」
修学旅行中の学生達の泊まる部屋らしからぬ、酒の匂いが部屋中に浸透し始めたそんな頃、唐突に横田はそう口を開いた。
「ん?」
横田から話題提起なんて珍しい。なんだかんだ言ってもやっぱりあんだけ強いアルコールが入ると、ある程度酔いは回ってしまうもんなんだろうか。
酔うと饒舌になる奴っているもんな。まぁ横田のこれは饒舌と呼ぶにはまだまだ足りないけど。
結構大きめの和室に二人。何故か隣同士で座る男子高校生二人。そして片方は相手に好意を寄せているというこの奇妙な状態。奇妙というか天国だ、少なくとも俺にとっては。
そういえばいつもつるんでるメンバー何人かで飲んだりすることはあったけれど、思い返せばいつもそういう時横田はいなかったな。
別に横田だけ誘わなかったとかいうわけじゃなくて(そんなことがあるはずないし)、なんつーかいつも飲みの時はあいつ用事があるとか言って欠席してんだよな、そういえば。
そんなことをつらつらと考えつつ、グラスを口につけながら横田からの次の言葉を促すように視線を合わせた。
「BLって知ってる?」
「ぶほっ!?」
思わず吹いた。
喉に流し込まれている最中だったはずのウォッカがものの見事に逆流した。
ゴホゴホと咳込みながら、さりげなく差し出されたティッシュを受け取り口にあてる。
「え…お、おまっ…な、何」
「最近ね、妹が……」
――要約すると、横田の妹が最近BLにハマりだしているらしい。BLが何の略語なのか見当もつかない横田は、何の因果か俺に聞けば分かると思ったらしく、こうして口にしたというわけだ。
まぁその推理は見事に的中というかなんというか、まさにBL的ラブ真っ最中の俺にそれを聞くなんて……「BL?それはね…」と押し倒しちゃってもいいのかな、いやそれよりも先ずは告白が先だろう。っていやいやそんな大それたことなんて出来るはずがない。うん、無理だ。
そんなわけで俺は、ごく普通の受け答えでごまかすことにした。
「BL?」
「うん、びーえる、って妹よく言ってる」
「ベーコンレタスとかじゃね?」
「あ」
ぽん、と手をたたいて至極納得したようにすっきりとした表情をする横田。こんなごまかしでもオッケーなのね、横田くん。
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