第9話
「横田お前コレ飲んでみたいって言ってたろ?」
「……ほぉ」
「ほぉって!感動少なっ!」
――1ヶ月くらい前。横田とか田中とかいつもつるんでるメンバーで、俺の家でだらだらテレビを見ていた時のことだ。
CMに映っていたショットバーのシーンを見た横田がぽつりと、「ウォッカ、飲んでみたい」と呟いた。
それを事も無げにしっかり記憶していた俺は、修学旅行の夜、是非とも横田と杯を交わし酔っ払った横田をごにょごにょ…と目論み、ネットで漁ったちょっとお高めのウォッカを持参していたというわけ。
横田の目の前にちらつかせた小ぶりのビンは、40度くらいあるとてもアルコール度数の高いお酒。本来高校生である俺達が口にしてはいけないってのはちょっと置いといて、こんなキツイ酒を横田に飲ませてしまって大丈夫だろうか。
自分で撒いた種ながら今更心配になってきた。
「……ちょっと、」
そう言って横田が俺の手からするりとビンを取り上げて、まじまじとその緑色のパッケージを眺め始めた。
「量、少なくない?」
「ははは、多分お前一口飲んだだけで酔っ払っちゃうぞ」
「え、何で?」
「コレすんげーキツイ酒なのよ。だからこの量全部飲んだりしたらヤバイかも」
「ヤバイって何が?」
俺の理性が!!
なーんて言えるはずもなく、目を泳がせつつ用意しておいたウォッカ用のグラスを包みから取り出し、横田に「ほら、注いで」と顎で指し示す。
「かんぱーい!!」
「……ぱい」
コツリ、と小さなグラスがぶつかり合う。
そのままグビッと一気にウォッカを流し込めば、急激に喉が焼けるような熱さに見舞われた。
「っっかー!」
思わずそう叫びながら横目でチラリと奴を見てみると、あいつは既におかわりを注ごうとしていて。
「え!?」
「…?」
顔色一つ変えずに2杯目のウォッカをきゅっと飲み干そうとしている横田は、俺の視線に気付くと口につけていたグラスを一旦離して、「何か問題でも?」的な顔でこちらを見る。
「お前、全然平気なの?」
「…俺、イケるクチだよ」
イケるクチとか!横田の口からイケるクチとか!何をイかしてくれるお口なのかな横田くーん!
…って、そうじゃなくて。
「なに、酒豪なん?」
そう聞けば、無言でコクリと頷いて先程のウォッカをキュッと飲み干す。
「…ぷはぁ」
「まだまだイケる?」
また頭を縦に落とした横田は「でも、」と何か神妙な面持ちで、持ち上げていたグラスを低い木彫りのテーブルにでん、と置いた。
「でも?」
「あ…いや、なんでもない」
ふるふると首を横に振ったその顔には、ほんのりとピンクの色が差していた。
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